いかに見つけるか

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 嘉山 がんの診断において、変異した遺伝子をいかに見つけるかが鍵となる。技術的な現状はいかがか。国立がん研究センターは、114個の遺伝子の遺伝子変異を検出できるがん遺伝子パネル「NCCオンコパネル」を開発された。

 中釜 これまで先生方のお話にあった通り、2000年に入りがんゲノム医療への期待が高まる一方、遺伝子変異の多様さも分かってきた。それらを一つずつ調べていっては時間がかかり、患者の病状も進んでしまう。そこで国立がん研究センター中央病院は「TOP―GEAR(トップギア)プロジェクト」を13年にスタートさせ、一度に多くの遺伝子変異を網羅的に調べられる遺伝子パネル検査の開発に着手した。その結果が「NCCオンコパネル」だ。これには海外製品にはない、日本のがん患者特有の遺伝子変異も搭載している。がん腫瘍を検査し、次世代シークエンサーという機器で解析し、判定する。現在は先進医療として343例が登録され、今後、遺伝子解析が実施されることになる。

 去年12月、このパネルを使った検査システムが国内で初めて薬事承認を取得した。今後、検査の有効性、安全性が明らかになり保険適用となれば、ゲノム医療は国民にとってより身近なものになるだろう。


大規模スクリーニング

 嘉山 遺伝子パネル検査は、患者が「個別化医療」を受けるために不可欠なものだ。一度に多数のがんに関わる遺伝子変異を調べられれば、何度も検査をしなくて済み、患者の負担や費用を軽減できる。

 見つけ出す、そして創薬につなげる、という点では国立がん研究センター東病院が中心となり始められた「SCRUM―Japan(スクラムジャパン)」という取り組みがある。

 大津 スクラムジャパンは、日本初の産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトだ。大規模な遺伝子異常のスクリーニングにより、希少頻度の遺伝子異常を持つがん患者を見つけ出し、有効な治療薬を届けることを目的としている。2013年に肺がん、14年に大腸がんを対象に事業が始まり、今は胃がんなどにも対象を広げている。

 先生方がおっしゃった通り、いろんながんでキーとなる遺伝子変異が分かってきた。その遺伝子変異ごとにがんを見ていくと、発症頻度は全体の1~2%と、まるで希少がんのような数字になってしまう。こうなると症例を集めるのも難しく、これまでの臨床試験の方法では治療薬の開発は困難だった。

 そこで医療機関や製薬会社と協力し、全国の患者登録を進めている。肺がんでは6年間で7000例を超える患者の遺伝子解析を実施。研究成果として今年2月、肺がんのマルチ遺伝子診断法が承認された。

 嘉山 ゲノムを基に個別医療を実現するためには、より多くのサンプル、正確なデータを集積する必要がある。その話題については後ほど考えよう。

 さて、ゲノム医療によりがんの5年生存率はかなり改善しているが、高齢化で患者数は増え続けている。今の医療では、できるだけ早い時期に発見して、負担の少ない治療で完治を目指すのが主流だ。いかに早く発見するか。「がんマーカー」の探索が世界中で行われている。技術はどこまで進んでいるのか。

がんマーカーの探索

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 中釜 がんの検査は、患者から腫瘍組織を採取して調べるのが一般的だ。しかし体の中から組織を取り出すのは患者にとって負担が大きく、リスクを伴うものもある。こうした課題を克服するため、国立がん研究センターはさまざまな研究に取り組んでいる。例えば、マイクロRNAの測定により、1回の採血で13種類のがんを発見できる次世代診断システムの開発などだ。当センターの研究と中央病院、東病院で蓄積した臨床情報を融合させ、前向きに使えるか検討を重ねている。

 メタボローム(糖やアミノ酸などヒトの体の代謝による産物)も注目の物質だ。鶴岡市にある当センターの連携研究拠点「がんメタボロミクス研究室」を中心に、血液や唾液からがんを発見できないか、研究を進めている。

 また血液で、73種類の遺伝子異常を解析する臨床研究も進めている。スクラムジャパンの研究として行うもので、結腸・直腸がんを含む消化器がんの患者を対象に、血中を循環する腫瘍DNAの断面を解析できる新しい技術「リキッドバイオプシー」を用いる。有用性が確認されれば、わずか20ミリリットルの血液があるだけで、消化器がんの診断、そして個別化医療を実現できるだろう。


どこからが「がん」?

 嘉山 分子生物学的な手法でのがん遺伝子検出には目覚ましい進歩がある。こうなるともはや、臨床的にがんが出現する以前に、がんと診断することも可能になってくる。果たしてがん細胞は、細胞数としてどのくらいあれば探知できるのだろう。私たちの体の中に、多かれ少なかれがん細胞はあるわけで。

 中釜 それはなかなか難しい問題だ。リキッド検査に共通する課題だが、例えば血液中のマイクロRNAを調べたとき、これが腫瘍そのものから出ているのか、腫瘍ができたために周辺の正常細胞から出ているのかが、まだよく分からない。少なくともステージⅠなど早い段階で病変の有無を予測できるマーカーとしては有用だ。

 嘉山 そうしたごく微小のがんの場合、治療する必要はあるのだろうか?

 中釜 とても重要なご指摘だと思う。例えば肺腺がんの場合だと、1センチ未満のすりガラス様陰影の病変は経過観察する場合が多く、その後進行するかどうか見極めるのはなかなか難しい。ただ、例えば膵臓(すいぞう)がんが1センチの段階で見つかれば、救命率は確実に高まるだろう。がん種ごとに詰めていく必要がある。

 上野 例えば大腸がんでは5ミリ未満のポリープを全部取っていては切りがないし、医療経済的にも合併症の頻度からいっても正しくない。リスクを層別化して危険性があるものを切除するのが正しいと思う。

 石澤 血液の領域でも、あるリンパ腫でその点が重要になっている。予後がとても長いリンパ腫で、一部の症例は無治療・経過観察が選択肢になるものの、ごく一部の症例では急速に進行していく。何かが違うと予測される。治療前のサンプルを解析し、遺伝的特徴が見つからないか検討していく。