NIBフロントライン

鈴政社長
佐藤英俊氏
佐藤英俊氏
【インタビュー】
 -業界と自社の現状や力を入れていることは。

 「酒田本店、東京麹町店ともに、客足は新型コロナウイルスの感染拡大前に戻りつつある。コロナ禍前と同じようにはなっていないが、東京はおかげさまで忙しい。自粛期間は、漁業者を支援し、お客さんの食卓が華やかになるよう、テイクアウトではクチボソガレイの焼き魚を付けるなどした。いろいろな手を尽くしてコロナを乗り越えてきた。すし業界はコロナだけでなく、漁業を取り巻く環境とも一体的だ。温暖化など海洋環境の変化の影響も受けている。海の変化は10年くらい前から感じていた。庄内浜の魚を多く提供していくが、全国の多くの漁港や漁業者との関係も築き、安定した仕入れができるようにしておく必要もある。ただ庄内の魚介類が一番の売りであることは変わらない。新鮮さも大切だが、熟成させるとうまみが増す魚もあり、庄内浜名物の紅エビやタイ、キジハタ、メバルなどは、酒田から東京に送っている」

 -求める能力や人材育成の現状は。

 「修業期間がどうしても必要になり、独り立ちするまで時間がかかる業界で、厳しい世界。飛び込んでくる若い人はどこの店も少なくなっている。環境を含めて大変な時代になっていくが、すしの文化がなくなることはないと思う。すし文化を守り、引き継いでいく意気込みのある若手を大切に育てなければならない。料理の道はまねることや、学ぶ姿勢が大事。さまざまな食材の味を知り、よい調理法は積極的に学び、取り入れるような人材を求めている。すし店は『さらしの商売』とも言われ、カウンターを挟んだ会話も大切。コミュニケーション能力も必要になる。酒田と東京麹町の職人を入れ替えるなどし、互いに違う環境で経験が積めるようにしている」

 -影響を受けた人物は。

 「兄が会社員になったこともあるが、初代で父の故・正太郎が始めた店を継ぐため、この道に進んだ。影響を受けたのは小松写真印刷3代目社長の佐藤孝氏。常連でもあったが、大変世話になり郷土愛の大切さを学んだ。地元のために尽力した1人。東京麹町店を出したのも、酒田や庄内に首都圏から人を呼び込むためで、自分も地元のために力を尽くしたい」

 ★佐藤英俊氏(さとう・ひでとし) 酒田北高(現酒田光陵高)卒業後に上京。7年間の修行を積んだ後、25歳で帰郷。鈴政で職人として働き始め、先代の父と店を支えた。父の引退後は2018年に会社を設立し、同年から現職。酒田市出身。58歳。

 ★鈴政 先代の正太郎氏は千葉県から、すし職人として酒田市に呼ばれ、独立して1955(昭和30)年に旧姓の「鈴木」から鈴政を開店。同市の本店に加え、2018年には東京都千代田区麹町4丁目に「東京麹町店」をオープンさせ、「株式会社鈴政」を設立した。資本金1千万円。従業員は22人。本社所在地は酒田市日吉町1の6の18。

【私と新聞】客に合わせ“ネタ”仕入れる
 多くの人が訪れるすし店では、客に合わせた話題への対応力も重要で、世の中の動きや地元の話題を知っておく必要があると佐藤英俊社長は強調する。東京だけでなく全国を忙しく飛び回るが、電子版なども活用して山形新聞を必ず読んでいる。
 「修業先も偶然に山新だった」と笑う。東京・日本橋の「寿司・割烹 山新」で高校卒業後、7年間修業した。証券会社が多く、証券マンが多く訪れた。「大きい文字(見出し)だけでも読んでおけ」と師匠からは言われていたという。経済や景気の記事を分からなくても読んだ。
 「プロ野球の結果とか、簡単な時事ネタ、地元の話をお客さんから振られて、答えられないようでは会話が続かない。若手にも新聞は読むよう言い聞かせている」。飲食業を営む上で、地元紙は欠かせない情報源だと語った。

【週刊経済ワード】都市ガス料金の上昇
 ガス料金には、原料となる液化天然ガス(LNG)の価格の変動を毎月の料金に自動的に反映させる「原料費調整制度」がある。ロシアのウクライナ侵攻や円安の進行による影響でLNGの輸入価格が高騰し、標準的な家庭の東京ガスの9月料金は昨年同月から千円以上値上がりした。利用者の負担を和らげるため、料金に反映させる原料費の上昇分に上限を設定しているガス会社もある。
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