NIBフロントライン

丸勘山形青果市場社長
井上周士氏
井上周士氏
【インタビュー】
 -業界の現状と自社の取り組みは。

 農業者の減少と高齢化が加速した結果、青果物を確保できないために市場が別の市場から買い付ける割合が半分を占めるといわれ、鮮度や市場の利益率の低下につながっている。当社は年約200件を新規開拓し、登録生産者総数を増やしている。その理由にもなっているのが鮮度へのこだわり。本県がブランド力を発揮できるサクランボでは約10年前から、朝収穫したものを夕方まで集荷して夜間販売し、翌日にはスーパーなどの店頭に並ぶ仕組みを構築している。一般的な青果市場だと店頭に並ぶまで3日程度。この仕組みでスーパーからの品質に関するクレームも9割近く減少した。さらに配送車はすべて冷蔵車にし、昨年には冷蔵売り場を2倍に増設した。いずれも、当社の創始の理念「農業者の支援」に従い、丹精込めて育ててもらった青果物を鮮度・品質を保って全国に販売、生産者に利益を返すためだ。

 -改革に積極的だ。

 産地開拓もその一つだろう。何を、いつまで、どうするのか目標設定して進行管理できるシステムをつくり、営業全員が生産者を回って産地を開拓、育成している。神奈川県で三浦大根の若手生産者グループを組織するなど県外でも展開する。ITも積極活用する。昨年は、スーパーからの発注対応にRPA(ロボットによる業務の自動化)を導入し、今年からは無料通信アプリLINE(ライン)で生産者専用グループをつくり、作物の生育に関する注意情報や市況動向を簡単に共有できるようにした。

 -求める人材と育成方法は。

 何より情熱のある人がほしい。人材育成では、従業員全員が▽顧客が求めるものは何かといったテーマで考え、良い習慣をつくる課題に週2回▽有名経営者の経営手法に関する文章を読み、気づきを書く課題に月1回-などと取り組んでいる。セミナーなどの参加機会もある。「学ぶ会社」をつくりたい。変化の激しい時代、これでいいとの考えは衰退につながるからだ。

 -影響を受けた人は。

 2代目社長の父と、先代社長の佐藤明彦会長だ。父は現在の所在地に移転し、集荷先がない中で1軒1軒農家を回って開拓し、社の礎を築いた苦労人。経営の厳しさと不屈の精神を学んだ。先代からの一番の教えは「人を嫌うな」ということ。嫌えばその人のせいにしてしまうが、自分から近づけば嫌な人などいない。人間の幅を広げるためにも大切なこと。尊敬できる社員もたくさんいる。

 ★井上周士氏(いのうえ・しゅうじ) 中央学院大商学部卒。大宮中央青果市場(さいたま市)で3年間修行後、1999年に丸勘入社。創業者は祖父で、2代目社長・井上直洋相談役の長男。専務を経て2020年4月、4代目社長に就任。山形市出身。49歳。

 ★丸勘山形青果市場 1955(昭和30)年、山形市銅町に夕方の産地市場として創業。社名は創業者の名前・井上勘左エ門に由来する。89年に現在地に新築移転。生産者から青果を集めて、スーパーや小売業者などに直接届ける流通システム「生産者直結方式」で成長を続け、2021年度の青果物取扱高は約157億円で県内トップ。全国の青果市場でも12位に位置する。県内の登録生産者は約6千人、県外出荷団体は550団体。資本金1千万円。従業員数はパートを含め125人。本社所在地は山形市十文字2160。

【私と新聞】社会の方向性知る手段
 丸勘山形青果市場の井上周士社長は「山形新聞は読まないと損をする」と評価する。幅広い分野に興味を持つが、特に気になるのは農業関係の記事。温暖化による作物への影響や国・県の農業政策はじっくり読み込む。「現状把握にとどまらず社会・施策の方向性を知ることができる。事象、背景を解説している点も理解の助けになる」と話す。
 SNS(交流サイト)も活用する世代で、情報を得る手段は多数あるが、新聞の情報は「信ぴょう性が違う」と指摘する。昨今の緊迫する国際情勢、地球環境の問題からゴルフ、ファッションまで多彩な情報が掲載され、楽しみながら学べるのもいい。「中高生のスポーツの結果、地域の話題も、お客さま、社員とのコミュニケーションに欠かせない」と続けた。

【週刊経済ワード】電力需給の逼迫(ひっぱく)
 電力の需要に対して供給に余裕がない状態。需要が供給を上回ると大規模停電につながる恐れがある。安定供給には供給力の余力を示す予備率が最低3%必要とされる。今夏はいずれの電力管内も3%を確保できる見通しだが、今冬は東北や東京電力などの管内で1%台と厳しい状況。原発の再稼働が進んでいないことに加え、脱炭素の流れで老朽化した火力発電所の休廃止が広がり、供給力が低下していることが背景にある。
[PR]