NIBフロントライン

みよし工業社長
斎藤栄作氏
斎藤栄作氏
【インタビュー】
 -業界と自社の現状は。

 「金属板を板金・製缶加工して製品を作る仕事は、中小企業が特注品として製作するのが大半だ。特注品は職人の技術頼りであるがゆえに技術継承が課題で、担い手不足により廃業する同業者は少なくない。当社は難しい製品の受注を戦略的に増やしていった結果、技術力が高まっていき、自然と全国から仕事が入るようになった。特別な機械や手法を使っている訳ではないが、職人が挑戦を重ねてくれた結果だ。例えば、入り口と出口の直径が異なる上に、形状が曲がっている『じょうご』のような役割の部品や、人が入れるほど広い空間を真空にできる容器などを手掛ける。病院の磁気共鳴画像装置(MRI)室の扉もある。空気も入らないよう隙間なく合わせる、曲線を描くパイプの中を滞留せずに流れるよう表面を滑らかに仕上げる、といった作業が難しい製品だ。多様な業種の顧客から年3千以上の特注品を受注する」

 -挑戦分野は。

 「昨年から自社製品の製造販売を始めた。主体の特注品は顧客の判断を待つ時間があり、この時間を使って製作できる自社製品の開発チームを立ち上げた。商品化第1弾は、金属アレルギーに悩んでいた妻のアイデアと職人技を合わせて誕生した、接着剤も溶剤も使わない純チタン製のピアスとイヤリング。昨年秋から自社サイトや県内外のマルシェで販売すると好評で、4月までに目標の1.6倍を売り上げた。3月には抗菌・抗ウイルス効果が持続する一方で加工が非常に難しい新素材を使ったドアハンドルの製品化にも成功し、東北ニュービジネス大賞の奨励賞を受賞できた」

 -求める人材と育成方法は。

 「競争心を持ち、困難な課題でもチャレンジできる人を求める。標準化しにくい仕事が多く、工法は職人それぞれに一任している。余計なルールや規則は設けず、自由度を持たせた方が人は思わぬ能力を発揮し、成長する。そんな育成環境を目指している。製造業では珍しく、フレックスタイム制を導入し、働き方も自由度が高い」

 -最も影響を受けた人物と、その教えは。

 「山形工高柔道部時代の恩師・田島友幸先生だ。練習はきつかったが、強豪の他校より短時間で個人のリズム・やり方を重視してくれ、多くの生徒が柔道成績を上げて卒業した。個性を出せる環境は、予想もつかなかった力を引き出すことがある。自社の環境づくりにまねているつもりだ」

 ★斎藤栄作氏(さいとう・えいさく) ものつくり大の製造技能工芸学科(現・情報メカトロニクス学科)卒。自動車部品製造などの大手企業アイシン・エィ・ダブリュ(現・アイシン)での勤務を経て2012年、みよし工業に入社。14年に社長に就いた。37歳。

 ★みよし工業 斎藤社長の父・吉栄会長が金属加工業として1985(昭和60)年に創業。91年に有限会社。精密部品洗浄機や学校の手洗いシンクなどの製作から始まり、徐々に真空の状況下で実験などを行う際の容器や、各種製造ラインの部品を手掛けるように。ステンレスや特殊材の板金・製缶で難易度の高い製品の受注が全国から飛び込む。資本金300万円。従業員19人。本社所在地山形市十文字韮窪北3455の118。

【私と新聞】大企業の動向を注視
 「新聞は会社のかじ取りをする際の情報を得る媒体」と斎藤栄作社長は言う。大企業は中小企業より早く方向性を決める傾向があると感じているため、大企業の動向を新聞の情報から注視し、自社でも取り組むべきか、考えている。
 今、特に注目しているのは、SDGs(持続可能な開発目標)の中の「気候変動に具体的な対策を」の動き。環境先進国といわれたドイツが、ロシアのウクライナ侵攻によって天然ガスの輸入に支障をきたし、エネルギー価格の高騰にあえぐ記事には、エネルギー転換の難しさを感じた。しかし近年の気候変動は明らかで、自社でも取り入れられる対策がないか、環境対策の記事を読み込んでいる。

【週刊経済ワード】企業の情報開示
 上場企業は業績や事業内容を記した「有価証券報告書」を国に提出しているほか、取引所が定めた「適時開示制度」に従って決算を含む重要情報を公表している。投資家は財務情報だけでなく、企業が社員などの人材をどのように活用し、成長戦略を描いているかを重要視。企業は投資資金を集めるため、男女平等など多様性の尊重に関する情報を積極的に公開する必要性が年々高まっている。
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