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鈴木建築設計事務所社長
藤原薫氏
藤原薫氏
【インタビュー】
 -自社や業界の現状は。

 「国内で建築物の木造化が進んでおり、当社も木造化に力を入れてきた。ただ、昨今のウッドショック(木材価格の高騰)により、その流れに水を差すことにならないか心配している。建築業界も高齢化が進み、1級建築士の数も急減している。建築設計は変化の緩やかな分野だが、社会の急激な変化に遅れないよう変わらなければいけない。建物の長寿命化は大事で、古い建物に新たな命を吹き込むリノベーションが重要。設計には発注者の考えを誠実に反映することが欠かせない。発注者の欲するものを、より次元の高いものにすることが設計者の仕事。発注者の立場に立つのが基本だ」

 -求める人材は。

 「地方に貢献したい人材が集まる生き生きとした組織を目指す。そうでないと、地方特有の建築文化や街の姿が消え、画一的で味気ない景観になる。何世代も続く景観をつくる気概を持った人材を求める。優秀であるに越したことはないが、情熱と目標を持ち続け、誠実に粘り強く仕事をやり抜けば必ず成功する。優秀であることよりも優先すべき要素だ。あとは笑顔とあいさつが必須。笑顔とあいさつがきちんとできない人がいると、負のエネルギーが強くなり組織力を弱める。笑顔とあいさつは最低限のマナー。他者への思いやりがあり、出会いを大切にする人であってほしい」

 -どのような能力、スキルが必要で、身に付けるためにどんな努力をすべきか。

 「設計はデザイン、構造設計、設備設計からなる。これらの協働がますます重要になり、専門分野に閉じこもらず全分野に通じている設計者が求められる。そのために幅広く学ぶ姿勢が必要だ。建築は他分野に比べ技術革新が遅いが、デジタルトランスフォーメーション(DX)など、変化に対応できる柔軟な思考と頭脳は欠かせない。昔ながらの設計一辺倒の設計者では生き残れない。相手の心をつかむコミュニケーション能力も重要だ。情報があふれている時代だからこそ、自分なりの意見や考えを持つ努力をしてほしい」

 -影響を受けた人物は。

 「(福島県いわき市の)四倉小時代に指導を受けた根本睦男先生の下、休みなく器楽合奏を練習して忍耐強さが身に付いた。大学時代には和泉正哲先生と出会い、当時は未整備だった建物の耐震化を実現させる構造設計の道へと歩むきっかけになった。『技術は先行しても必ず横並びになる。差がつくのは人間関係、営業だ』という言葉が今も強く心に残り、出会いから45年以上たった今でもお付き合いが続いている」

 ★藤原薫氏(ふじわら・かおる) 東北大工学部卒。1975(昭和50)年、フジタ(東京)に入社し構造設計・ソフト開発や超高層鉄筋コンクリート造技術開発に携わった。義父・鈴木健吉前社長の死去に伴い97年、鈴木建築設計事務所に入った。現在は県建築士事務所協会長も務める。福島県いわき市出身。68歳。

 ★鈴木建築設計事務所 1956(昭和31)年に鈴木健吉氏が創業。老人や障害者など弱者のための施設設計の先駆けとして知られ、木材をふんだんに使う設計が多い。近年は多くの観光客が訪れる道の駅米沢、県内初の耐震改修優秀建築賞に輝いた旧長井小第一校舎改修、旧白鷹西中跡地に建設された特別養護老人ホーム白光園、2018年度グッドデザイン賞に選ばれた東北大建築CLTモデル実証棟など、県内外で注目される建築物の設計を手掛けた。資本金2千万円、従業員数20人。本社所在地は山形市相生町7の55で、仙台市にも設計室がある。

【私と新聞】紙媒体で全体を俯瞰
 もともと文字が好きで、本や新聞、雑誌は普段からよく読むという藤原薫社長。「インターネットも情報源として利用するが、最終的にはやはり紙媒体でないと全体を俯瞰(ふかん)できないので、紙媒体は非常に重要視している」と語る。
 新聞は会社に出掛ける前、自宅で2紙を一通り読み終えるようにしている。経済紙で国の経済、政治、市場の動向にアンテナを張り、山形新聞では県内各地の情報をキャッチ。「自分なりの考えを持ちながら紙面に目を通し、誰とでも話ができる材料を、意識して吸収するようにしている」
 仕事柄、歴史的な建築物の保存、リノベーションに関する記事が目にとまる。山形新聞では最近、旧高畠鉄道高畠駅舎に関する記事に興味を持ったといい「話題にしてもらい、ありがたい。私も保存を技術的にバックアップしたい」と話した。

【週刊経済ワード】企業版ふるさと納税
 応援したい自治体の地域活性化事業に寄付した企業の税負担を軽くする制度。地方創生の一環で2016年度に始まった。税収が豊かな東京都や首都圏などの一部自治体を除く全国の自治体が対象。20年度に税の軽減額が寄付額の最大6割から9割へと引き上げられ、利用が広がった。癒着を防ぐため、自治体が寄付企業に対して補助金を出すなど経済的な見返り行為は禁止されている。
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