NIBフロントライン

木村屋社長
吉野隆一氏
吉野隆一氏
【インタビュー】
 -菓子・パン業界の現状は。

 「人口減少に伴い市場が縮小する中、働く人の年代が高くなっており、人手は不足している。IoT(モノのインターネット)やロボット化など急速に技術が進歩している一方、それらの導入が経費やスペースなどの面から、業界全体として遅れていることも課題だ。インターネット販売の充実や他地域への販売網の開拓など、無理なく緩やかな拡大路線を図りたい。技術、マーケティング、人事などの点で乗り越えなければならない壁は多いが、新たなヒット商品作りや業務の効率化を進める必要がある」

 -その取り組みを進める上で、どのような人材を必要としているか。

 「柔軟な考え方を持ち、素直な人。物事に前向きに取り組み学ぶ意欲を持っていること、人の話をよく聞けることが望ましい。絵や図を描くのが得意で発想力があることも重要な要素になる。想像していた世界を表現できる力が、この業界では役に立つ」

 -人材育成はどのように進めているのか。

 「実際に業務に携わりながら先輩から指導を受けて経験値を高め、即戦力として活躍してもらうオンザジョブトレーニングを基本としている。講習会や研修会への派遣も行っていたが、新型コロナウイルスの問題や業務の効率化ということを考えると、現状では難しい。今後は教育用の映像、動画を各自がパソコンやスマートフォンで見て技術と知識を共有し、現場で実践できる育成方法も取り入れていきたいと考えている。当社の従業員を見ていると、お客さまに柔軟に対応できるといった器用さを最近の若い人は持っていると感じている」

 -仕事上で影響を受けた人物は。

 「学生時代に柔道に打ち込んだこともあり、(講道館柔道創始者の)嘉納治五郎の言葉『剛柔一体』を意識しながら仕事をしている。生産する力、それを売る力をソフト、ハード面ともに柔軟性を持ちながら高め、強い会社にしたい。今の時代に人々が欲しているのは優しさ、温かさだと思う。それが伝わる商品、接客を提供していく」

 ★吉野隆一氏(よしの・りゅういち) 鶴岡南高、日本大商学部卒業。東京の洋菓子店、パン店での計2年半の勤務を経て1981(昭和56)年、木村屋入社。99年に4代目社長に就任した。鶴岡市出身。66歳。

 ★木村屋 1887(明治20)年、本県初のパン店として創業。屋号は東京・木村屋総本店からのれん分けを許されたことに由来し、和洋菓子とパンの製造販売を手掛ける。羽黒山鏡池から出土した鏡をかたどった菓子「古鏡」が鶴岡土産として定着。代表商品は他に「マロン」「はんじゅくチーズ」など。鶴岡、酒田、仙台各市に計19店舗を構える。資本金3960万円、従業員約120人。本社所在地は鶴岡市山王町9の25。

【私と新聞】観光客の動向をチェック
 新聞は会社に出勤してからの午前中、時間を見つけてじっくり読むのが吉野社長のスタイル。土産品、贈答用としての需要が多い商品を扱っているだけに、観光客の動向が気になるという。「公共交通機関の空席状況、帰省の様子といった情報を通し、人の動きが確認できる。それを参考に、材料を仕入れる量など商品の製造計画を考えている」

 新たな商品開発の動き、地域の行事といった県内各地の話題、健康に関する情報にも高い関心を寄せる。特に商売柄、食に関するニュースに目が行くといい「県が開発した大玉サクランボ、庄内町で栽培されているラズベリーの記事は興味深く読んだ」と話す。

 新型コロナウイルスを巡る社会の動向は、業務に直結するだけに目が離せない。「ウィズコロナ、アフターコロナとは、どのような世の中なのか。注視して対応する」と力を込めた。

【週刊経済ワード】政府のインフラ輸出戦略
 安倍政権は成長戦略の一環として、新興国を中心に旺盛なインフラ整備の需要取り込みを狙い、2020年に受注額を約30兆円に拡大させる目標を掲げている。機器単体だけでなく、運営や管理の手法を含めたシステムとして発電所や鉄道などを輸出する取り組みを官民連携で強化し、技術やノウハウを持つ国内企業の事業拡大を後押しすることを目指している。
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