ここが見どころ[4] アジア千波万波

2023/10/1 15:26
「我が理想の国」の一場面(山形国際ドキュメンタリー映画祭提供)

 ドキュメンタリー映画でしか伝わらないもの、伝えられないものがある。監督の家族や共同体という小宇宙から、人々の叫びや痛み、喜びや楽しみを記録し、見せてくれる。その監督にしか作れない唯一無二の映像センスがキラリと光る、「アジア千波万波」の19作品の中から、家族の視点から世界が描かれる作品を中心に紹介する。

 女性監督が描く「母と娘」は、社会の規範や親が望む娘の未来像、娘の自分に向けられているカメラとも葛藤しながら、彼女らと接する母親の苦しさもにじみ出る。「平行世界」(177分)のシャオ・メイリン監督は母として高校生になったアスペルガー症候群の娘の自立までの葛藤を映画で伴走し、「私はトンボ」(80分)のホン・ダイェ監督は、娘の視点で高校3年生の時に教室でカメラを回し始め、親と子双方にとって厳しい韓国の受験戦争を生き抜く。

「それはとにかくまぶしい」の一場面(山形国際ドキュメンタリー映画祭提供)

 また、社会運動という共同体で母と娘のような連帯で社会を変えていく「地の上、地の下」(監督=エミリー・ホン、84分)は、ミャンマーのマイ川のダム建設の反対運動に関わる、女性活動家3人の緩やかな関係を描く。ノウシーン・ハーン監督は、「我が理想の国」(74分)でインドのモディ政権のムスリム(イスラム教徒)排除政策に、座り込みで抗議する年配の女性たちと行動を共にしながら、自身のムスリム・アイデンティティーに誇りを持ち始める。

 息子の立場から、父に思いをはせる「確かめたい春の出会い」(25分)のタイムール・ブーロス監督は、異国の地で偶然出会った人々の懐に入り、レバノンでは手に入らない父のがん治療薬を探し歩く。同様に「記憶の再生」(69分)のバルン・トリカー監督は、エストニアの国境地帯で、父がパキスタンから追われた難民である家族史を重ね合わせる。

 そして父親の監督が娘を撮影した映像が核となる作品がある。日記のように撮影された波田野州平監督「それはとにかくまぶしい」(18分)は、娘との楽しい会話の連鎖から、コロナ禍で一変した家族との時間が鮮やかに描かれる。一方で「ホームストーリー」(69分)のニダール・アル・ディブス監督と家族の人生は、自由を求めて市民が立ち上がった「アラブの春」で一変し、監督も故郷シリアを追われたが、娘の成長を記録することが一筋の光となり、映画制作を断念しなかった。

 少し脱線するが、その10年後、ミャンマーでは、軍のクーデターに抗議した市民による大規模なデモが起きた。「鳥が飛び立つとき」(28分)の監督は、デモに参加する自身と友人の青春が奪われる、個人の体験と思いを刻々と記録し、「負け戦でも」(23分)の監督は、息を潜めざるを得ないクーデターから2年後の生活を籠の中の鳥に例えて私的に描く。今も、これからも映画を作り続けるために、匿名で作品を世に出した。

 誰かにとっての日常の景色や時間の中に、作り手とカメラと作る意志がある限り、ドキュメンタリー映画は生まれる。そんな作り手が信じる映画の力や突き動かされる思いが、広いアジアの地域から、千の波、万の波となって、山形に集結する。(アジア千波万波コーディネーター・若井真木子)

 ◇上映日程

 ▽平行世界=7日午後0時40分、9日午後5時40分

 ▽私はトンボ=8日午後3時10分、9日午後0時50分

 ▽地の上、地の下=6日午前11時、10日午後1時

 ▽我が理想の国=7日午後5時40分、9日午前10時

 ▽確かめたい春の出会い=7日午前10時10分、9日午後2時半(「ベイルートの失われた心と夢」同時上映)

 ▽記憶の再生=6日午後6時、8日午後0時40分

 ▽それはとにかくまぶしい=7日午後3時10分、8日午前10時(「GAMA」同時上映)

 ▽ホームストーリー=6日午後1時半、7日午後8時

 ▽鳥が飛び立つとき、負け戦でも=9日午後0時20分、10日午前10時10分※場所は全てフォーラム山形

山形国際ドキュメンタリー映画祭

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