ここが見どころ[3] インターナショナル・コンペ部門(下)

2023/9/29 23:50
「アンヘル69」の一場面(山形国際ドキュメンタリー映画祭)

 【アンヘル69】(監督=テオ・モントーヤ、75分) 人間と幽霊の交流をテーマとした長編のB級映画を製作する、というのが監督の当初の構想だった。ゲイやトランスジェンダーの友人に参加してもらい、主役にはSNSで「Anhell69」のアカウント名を持つカミロを起用する予定もあった。しかし、カミロが薬物の過剰摂取で早世し、続くように複数の知人が命を断つというつらい体験を経て、ドキュメンタリーとしての映画づくりを決意する。反政府左翼ゲリラとの闘争や麻薬密売組織に支配されてきたコロンビアの都市メデジンを舞台に、暴力や悲しみを乗り越えて生き延びる方法を模索する。

 【ターミナル】(監督=グスタボ・フォンタン、62分) 労働者たちが行き交うアルゼンチン・コルドバ州のバスターミナル。仕事の行き帰り、待ち合わせなどの風景の中に、話し声、バスのドアの開閉音やエンジン音が反響する。愛する人との出会いや別れについて市井の人々の語る言葉が、映像とは異なったリズムで重ね合わさる。さまざまな時間帯に撮影された陽光はまぶしく輝き、夜の闇にも独特の色合いがある。日常はこんなにも多くの音や光、そして優しい言葉に包まれていたのかと、その美しさに気付かされる。2015年にコンペ部門の審査員を務めたフォンタン監督の待望の新作。

 【ニッツ・アイランド】(監督=エキエム・バルビエ、ギレム・コース、カンタン・レルグアルク、98分) ゾンビが徘徊(はいかい)する広大な世界を舞台としたサバイバルゲーム「DayZ」の中に、フランス出身の3人の映画クルーが潜入した。963時間に及ぶ取材の中で多くのアバターに出会い、参加の動機や現実生活についてのインタビューを試みる。仮想空間の匿名コミュニティーに居場所を求める心理、画面の向こうで操作するリアルな人間の孤独な姿までもが想像される。ゲームの2次元世界に親しみのある人も、擬似的な生存競争に違和感を抱く人もいるだろう。賛否両論が予想されるが、新しい時代の感性がドキュメンタリーの概念を拡張したことは確かである。

 【何も知らない夜】(監督=パヤル・カパーリヤー、100分) インドの映画学校の寮から発見された女子学生Lの手紙をきっかけに、架空の物語が展開する。ダンスパーティーのシーン、映画に夢中になる平穏な日常風景が断片的に挿入される一方で、女性の声に託された朗読は、Lの悲恋の背後にあるカースト制の存在を語る。学生デモ、反カースト運動、極右政党とヒンドゥー至上主義者による学生運動の弾圧、警官との激しい衝突を記録した緊迫感漂う場面。若者たちが置かれた政治的な状況は、とても過酷なものだ。幻想的で静かなモノクロームの映像の中で、インド社会を支配する大きな力にあらがう学生たちの姿を伝える。

「ある映画のための覚書」の一場面(山形国際ドキュメンタリー映画祭提供)

 【ある映画のための覚書】(監督=イグナシオ・アグエロ、104分) 19世紀末、チリの一部となったアラウカニアに、鉄道建設のために若いベルギー人技師がやってきた。日記を基に往年を振り返るスタイルの中に、再現劇、記録映像、現在のチリの様子など複数の視点が存在する。アグエロ監督本人が青年役の俳優とともに登場する仕掛けには遊び心もあるが、彼らが明らかにするのは、西欧による植民地化や土地の開拓と略奪の歴史、先住民族マプチェの人々への抑圧の歴史である。かつて敷設された鉄道は遺構となったが、大切な生活や自然を奪われた事実は消えることがない。マプチェの末裔(まつえい)の心には、静かな怒りや憤りが今でも残り続ける。(図書館司書・吉田未和)

 ◇上映日程

 ▽アンヘル69=7日午後5時(市中央公民館)8日午後6時55分(市民会館)

 ▽ターミナル=6日午後2時15分(市民会館)9日午後4時(市中央公民館)

 ▽ニッツ・アイランド=7日午前10時15分(市民会館)9日午後1時5分(市中央公民館)

 ▽何も知らない夜=6日午後7時10分(市民会館)10日午後2時45分(市中央公民館)

 ▽ある映画のための覚書=6日午後4時25分(市民会館)7日午後1時45分(市中央公民館)

山形国際ドキュメンタリー映画祭

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