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古き良き時代、乗馬に映す~山形

(2012/01/18掲載)

山形馬事センターで体験

放牧のため放たれた馬。ものすごいスピードで雪原を駆け回る姿に古き良き時代が見えた=山形市中里
放牧のため放たれた馬。ものすごいスピードで雪原を駆け回る姿に古き良き時代が見えた=山形市中里
 自然の驚異に身を震わせた東日本大震災。一方で、原発事故をはじめとする文明による災害とも言われている。高度経済成長期を支えた先人たちの努力を否定するわけではないが、生き方などを見つめ直すうち、“古き良き時代”への思いが強まった。なぜか、馬が自分を呼んでいるような気がした。

 滑稽だろうが、40歳を前にした生粋の山形人が思い描く「古き良き時代」は、西部劇に見る19世紀の「アメリカ」だ。家族や仲間との絆、悪に屈しない強い心だけでなく、殺伐とした生活の中に、どこかゆとりがある。テレビやラジオ、電話もなく、情報を伝えるのは新聞だけ。そんな西部劇の象徴は、唯一の交通手段でもある「馬」だ。

 出掛けたのは山形市中里の山形馬事センター(関智哉代表)。ともに“鉄馬”(バイク)にまたがり佐渡島を旅した記者仲間に紹介してもらった小林郁美さん(26)=同市漆山、団体職員=が出迎えてくれた。馬術競技で東北総体を2度制し、国体にも出場。同センターに馬を預けているという。

 荒々しいカウボーイとはかけ離れた中折れ帽はご愛嬌(あいきょう)だが、着るものも当時をイメージした。偶然居合わせた会社の先輩が同センターの会員だといい、引き馬を買って出た。うしろに付いてくれた関代表も心強く、乗り方を丁寧に教えてもらった。

 くらを付けると体高は170センチほどだろうか、視界も高さ約2メートル50センチからと別世界になる。くらを通じて4本足で雪原を踏み締める感覚が伝わり、時間がゆっくりと流れる。乗馬はセラピーなどにも活用され大きな力を発揮しているが、記者にとって心が癒やされるのはもちろん、景色も変わって見えた。もちろん19世紀アメリカの荒野だ。

 文明の発達は人々の生活を便利にするだけでなく、生産に携わる人の生活を支えるなど、社会構造の一部となっている。そんなことを考えながら馬に乗り、ゆったりしたリズムで体を揺らしながら、緩やかな風を体全体に受けた。馬の足音が「便利さの代償で、何か失っていないか?」と言っているような気がした。

癒やされ、景色は「西部」

華麗に馬を乗りこなす小林郁美さん。ここまで乗りこなせれば楽しいに違いない
華麗に馬を乗りこなす小林郁美さん。ここまで乗りこなせれば楽しいに違いない
 馬を降りると、初心者の雪上走行は危険を伴うからと小林さんが模範を見せてくれた。雪煙を舞い上げて華麗に走り、跳ぶ姿はまさに人馬一体。優雅さに見とれるうち、再び生き方を見つめ直していた。

 震災発生直後、小さな子どもを含めた5~6人の家族が買い物の荷物を手分けして運ぶ姿が、給油待ちの車の列と対照的に見えた。もはや文明を現代社会と切り離すことは不可能だが、幸いなことに、現代人は自らの望む生活を選択することができる。

 「しあわせはいつもじぶんのこころがきめる」-。相田みつをさんの詩が、心に浮かぶ。馬の背中は、いろんなことを語りかけてきた。

(天童支社・黒沢光高)

【メモ】山形市中里の山形馬事センターは通年営業。引き馬(10分)1000円、ビジター(30分)5000円、3回体験コースが1万円で、予約が必要。定休日は毎週月曜で、見学も自由に受け付ける。023(687)4885。
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