社説

五輪招致の疑惑 深い闇の解明不可欠だ

 汚職、談合事件によって傷ついた東京五輪・パラリンピックに、もう一つ「負の遺産」が加わるのだろうか。五輪招致の段階で、国際オリンピック委員会(IOC)委員に贈答品を渡したという疑惑が表面化した。

 きっかけは、安倍政権当時、自民党の五輪招致推進本部長を務めていた馳浩石川県知事の講演だ。安倍晋三元首相から「招致は必ず勝ち取れ」「金はいくらでも出す。官房機密費もあるから」と言われ、投票権を持つIOC委員105人に対し、それぞれの選手時代などの写真をまとめた20万円のアルバムを作成して贈った、と明かした。

 事の重大さを指摘されたのか、馳氏はその日のうちに発言を全面撤回。事実誤認と釈明したが、どの部分が誤認なのか、いまだに説明していない。講演では「ここからはメモを取らないで」「外で言ったら駄目」とも述べ、当時の自身のブログにも「東京開催の意義を伝播(でんぱ)させるためのロビー活動」「アルバム大作戦」と記しており作り話とは思えない。もし事実でないことを言ったとすれば、要職にある政治家として資質が欠落していると批判されても仕方ないだろう。

 長野、ソルトレーク両冬季五輪の招致で過剰接待や買収があったことから、IOCは規定で五輪関係者への贈り物を禁じた。その一方で、東京五輪招致当時、慣習的な「ごくわずかな価値の贈り物」は認めており、IOCは馳氏の発言後に「アルバムは明らかにIOCの規定に沿った感謝の印だ」との声明を出した。だが、「20万円の贈り物」を国民はどう受け止めるだろうか。

 見逃せないのは、アルバムの制作費用として内閣官房報償費(機密費)の使用に触れた点だ。松野博一官房長官は機密費の使途の明示を拒んでいるものの、原資は国民の税金だけに、規定に抵触しかねない不適切な行為に使われたとすれば、重い説明責任を負う。

 馳氏が語ったように、カネに糸目を付けずに五輪を手繰り寄せようとしていたとすれば、明らかに五輪精神にそぐわない。馳氏も元五輪選手なら、逃げてはならない。発言撤回でうやむやにすべきではない。政権も自民党も、招致に潜む深い闇を徹底的に解明することが必要だ。

 東京五輪の招致を巡っては、都と日本オリンピック委員会(JOC)が立ち上げた招致委員会によるIOC委員への買収の疑いが発覚。フランスの司法当局が捜査に入り、招致委理事長だった竹田恒和氏がJOC会長退任に追い込まれた。

 五輪の運営でも、スポンサー企業選定などに絡む贈収賄事件で、大会組織委員会元理事や企業関係者ら15人が立件された。各競技のテスト大会の計画立案や本大会の運営業務などの入札でも、談合が行われたとして、組織委元幹部、大手広告会社を含む6社、7人が独禁法違反の罪で起訴されている。

 世界のアスリートが躍動し、多くの市民に感動を与えるスポーツの祭典が「カネまみれ」となっていたのか。名乗りを上げていた札幌冬季五輪は、2030年、34年はおろか、38年も道が閉ざされつつある。この国に五輪を開く資格があるのかが今、問われている。

(2023/12/08付)
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