選挙遊説中に銃撃され死去した安倍晋三元首相の国葬から1年。岸田政権は国葬の記録集をまとめた。淡々と経過を記述するにとどまり、国費12億円を投じた国葬を巡り世論が二分されたこと、安倍氏の死去わずか6日後に岸田文雄首相が国葬実施を表明したプロセスの是非、問題点を指摘した有識者ヒアリングなどには触れなかった。後世に伝えるための検証作業は素通りした形で、歴史資料としても不十分だろう。
松野博一官房長官は国葬実施の基準作りについて「時の内閣において責任を持って判断する」と明文化を見送る意向を示している。昨年「今後に役立つよう検証をしっかり行う」「一定のルールを設けることを目指す」と表明した岸田首相の国会答弁は、その場しのぎだったのか。
首相経験者らが国葬にふさわしいか、基準を定めるのは、今回の安倍氏のケースも含め、生前の業績を評価することにつながる。政権としてそこまで踏み込むのは避けたかったのだろう。
言うまでもなく、いかなる事情があっても暴力で言論を封殺することは絶対に許されない。私たちはこの凶行をあらためて強く非難し、安倍氏を悼み、民主主義を守る決意を確認する必要がある。だからといって、感情に流されて憲政史上最長の政権となった「安倍政治」の検証をおろそかにするわけにはいかない。
安倍政治の大きな特徴の一つは、異論を封じ込め、疑問に対しても真正面から向き合わない政治姿勢であった。人事権を握られた霞が関官庁では首相官邸への「忖度(そんたく)」がまん延し、国会は行政府の監視、言論の府としての機能を喪失。何よりも敵・味方をあからさまに分ける手法は、社会の分断を招いた。森友、加計両学園、桜を見る会問題で公私混同の疑念が生まれたのは記憶に新しい。
アベノミクスによって雇用や経済指標が上向いたのは事実だ。しかし今、長期間にわたる異次元の金融緩和からの出口にあえぐ。「国難」と呼んだ人口減少や少子高齢化への対応が遅れたことも否めない。政策の優先順位が果たして適切だったのか。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係も未解明のままだ。
外交面では、歴代首相と比べても傑出した存在感を示した。異端のリーダー、トランプ前米大統領と濃密な信頼関係を築き、日米同盟の強化を図った。ただ対ロシア外交では、北方領土問題で従来の4島の帰属確認方針から、2島返還に転換。プーチン大統領との交渉に前のめりになりながら、成果を生まなかった点は厳しく総括しなければなるまい。
「あなたは、歴史の法廷に、永遠に立ち続けなければならない運命(さだめ)です」「あなたが遺(のこ)した事績をたどり、あなたが放った強烈な光も、その先に伸びた影も、同僚議員たちと言葉の限りを尽くして、問い続けたい」。これは昨年10月、衆院本会議で行われた立憲民主党の野田佳彦元首相による追悼演説だ。
安倍政治とは一体何だったのか。悲劇的な最期や「安倍晋三回顧録」の出版もあって、美化されがちだ。だが、さまざまな証言を基に公正な視点で徹底的に問い直し、教訓を導く作業が、岸田首相をはじめ、残された者の務めである。
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