社説

鶴岡加茂の風力発電計画 共存へ探りたい解決策

 鶴岡市加茂地区の風力発電事業計画について、市が主催した住民説明会が一通り終了した。計画地がラムサール条約登録湿地「大山上池・下池」に近いことから、市は業者側に計画中止を求めている。自然保護や健康への影響を懸念する声に応えるのは当然だが、昨今の異常気象を踏まえると、再生可能エネルギーの推進は急務だ。共存できる道はないのか。解決策を見いだしたい。

 建設を計画しているのはジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE、東京都)。風力や太陽光、バイオマス発電の調査、建設などを手がける企業で、2012年に設立された。市に提出した事業計画によれば、加茂地区周辺に最大8基の風力発電機を設置する。発電容量は最大約4万キロワット。運転開始は29年1月を目標にしている。

 市は今年2月、JREに計画中止を申し入れた。湿地の保全と賢明な利用を目指すラムサール条約登録湿地の近傍であり、「絶滅危惧ⅠB類」に指定されているクマタカなど猛禽(もうきん)類や自然環境への影響が懸念されることを理由に挙げた。

 一方、市議会6月定例会では、「調査もせず事業中止では諦められない」として、加茂地区の一部住民が計画中止申し入れの撤回などを求めた請願が採択された。市は7、8月に同地区など3カ所で住民説明会を開催。参加者からは「調査を継続し、風車を建設すべきだ」「騒音や低周波音が心配」などの声があった。

 8月2日には、加茂の計画地から南方、同市八森山にあるJREの風力発電施設付近でクマタカ1羽の死骸が見つかったと、市が発表した。風車にぶつかった「バードストライク」の可能性があり、日本野鳥の会は、JREに対し加茂地区の事業中止の要請書を提出した。

 JRE側は「環境への影響が甚大なら建設できないことは理解している。事業化については国や県、市と相談しながら、調査結果に基づき科学的、客観的に判断したい」とする。

 一般社団法人日本風力発電協会によると、日本の風力発電導入量は昨年12月末時点で480万キロワットに上る。東日本大震災前の10年時点では233万キロワットで、倍以上に増えた。地域別に見ると、東北が182万キロワットで突出しており、次いで九州63万キロワット、北海道51万キロワットと続く。同協会は「風力発電の適地は年間平均風速が毎秒6、7メートル以上あること。東北、北海道、九州は風況がよく、人口密度が低いため、建設適地が多い」と話す。

 「ラムサール湿地近接風車建設に反対する会」は8月29日、皆川治市長に1万232筆の反対署名を提出した。一方、加茂地区の住民有志で組織する「地域の未来と環境を考える会」は中止申し入れの撤回と調査継続を求め、署名活動を展開している。現段階で、最適解は容易に得られそうにない。

 オゾン層破壊の研究でノーベル化学賞を受賞したオランダ人研究者パウル・クルッツェン氏は、人類が環境に与える改変の大きさを重視して、現代を「人新世」と呼ぶことを提唱した。幅広く、深く、冷静な議論を丁寧に行わないと、「人新世」が地球最後の時代区分になりかねない。

(2023/10/02付)
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