ウクライナ南部ヘルソン州で起きたカホフカ水力発電所の巨大ダム決壊に伴う洪水は、ロシアによる侵攻後に起きた最悪の人道危機の一つだ。破壊が原因だとすれば、戦争犯罪に該当する非道な行為で、断固容認できない。国際社会は団結して被災地支援と真相究明に取り組むべきだ。それは重要施設の兵器化という愚行を防止することにもつながる。
決壊によりドニエプル川流域で大規模洪水が発生した。濁流が襲った被災地市長の1人によれば、市域の約9割が水没、約120人が低体温症で搬送され、濁流に浮かぶ遺体も目撃された。グテレス国連事務総長が指摘したように「人道的、経済的、環境的にとてつもない大惨事」の様相を呈している。
死傷者の増加に加え、農業用水や市民の飲料水が枯渇するといった人道危機悪化の恐れも高まる中、岸田文雄首相はゼレンスキー大統領と電話会談し、500万ドル(約6億9700万円)規模の緊急人道支援を実施すると伝えた。
赤十字国際委員会(ICRC)や世界保健機関(WHO)も支援を表明しているが、戦争当事国の被災地という特殊条件が重なり、物資などが届くには時間がかかる見通しだ。
ロシアとウクライナはともに相手国による破壊があったと主張する。現時点で大規模な攻撃が発生したとの情報は確認されておらず、以前から存在した損傷が原因となった可能性も否定できない。しかし今回の事態は、ウクライナに侵攻し同発電所地域を支配していたロシアに一義的責任がある。ロシアの言い逃れを受け入れてはならない。
両国にチャンネルを持つトルコのエルドアン大統領は、国際調査委員会の設置を提案した。国際社会は原因特定に向けこの動きを支持すべきだろう。双方が自国の潔白を主張するのであれば、速やかな受け入れを拒否する理由はないはずだ。また人道支援や調査を受け入れることで、地域限定的だとしても、停戦や非戦闘地域の設定が実現することを望む。
広大な地域が水没したことで戦車や重火器の稼働が困難となり、ドニエプル川を挟んでにらみ合うロシアとウクライナ両軍の戦況にも影響する見通しだ。これによって懸念されるのが、戦況を有利にするための道具としてダムを利用する戦略への誘惑だ。昨年2月の侵攻開始後にこの手を用いたのは、実はウクライナ側だった。首都キーウ(キエフ)を守るため近郊の川でダムを破壊、沼地を作り出してロシア軍の進撃を遅らせた。
戦時下の文民保護などを定めたジュネーブ条約は1977年の追加議定書によって「危険な力を内蔵する工作物(ダム、堤防、原発)」への攻撃を禁じている。欧州連合(EU)は今回の事案が戦争犯罪に当たる可能性を指摘した。
決壊したダムは上流にある欧州最大のザポロジエ原発に冷却水を供給していた。ウクライナは取水に必要な水位を下回ったとしており、予断を許さない状況だ。侵攻以来、核兵器の使用さえもちらつかせてきたロシアがウクライナの反転攻勢で窮した場合、ダムや原発を兵器とみなして破壊する恐れは拭えない。人道危機をこれ以上許してはならない。
|
|
ウクライナ南部ヘルソン州で起きたカホフカ水力発電所の巨大ダム決壊に伴う洪水は、ロシアによる侵攻後に起きた最悪の人道危機の一つだ。破壊が原因だとすれば、戦争犯罪に該当する非道な行為で、断固容認できない。国際社会は団結して被災地支援と真相究明に取り組むべきだ。それは重要施設の兵器化という愚行を防止することにもつながる。[全文を読む]
マイナンバーカードを巡り混乱が拡大している。制度の信頼回復は政府の責務であり、まずは問題の全容を把握し、システム改修など再発防止を急ぐべきだ。[全文を読む]
人工知能(AI)の進歩を追いかけるように、先進国は文章や画像を自在に作り出す生成AIのルールの検討を始めた。大事なのは著作権侵害や個人情報の拡散などのリスクを直視し、開発と利用のルールを確立することだ。[全文を読む]
高速道路の料金徴収期限を50年延ばし、2115年までとする改正法が今国会で成立した。高速道路の無料開放という政府による約束が棚上げされ、実質的に「永久有料」になるとも言える。老朽化する施設の更新などに収入を充てるためだとするが、無料開放が遠のく理由を十分説明し、理解を得る努力をすべきだ。[全文を読む]
1997年の神戸連続児童殺傷など重大少年事件の記録を全国の家裁が廃棄していた問題を調査していた最高裁は、各裁判所に廃棄を促すような自らの不適切な対応が原因となったことを認め、「後世に引き継ぐべき記録を多数失わせ、深く反省する」と謝罪する調査報告書を公表した。廃棄ありきの意識は根本的に改める必要がある。[全文を読む]
土門拳記念館は1983(昭和58)年、日本初の写真専門美術館として酒田市の飯森山公園内にオープンし、本年度で40周年を迎えた。20世紀の日本を代表する写真家の作品13万5千点を所蔵する。[全文を読む]
保育士から乱暴な扱いを受けたり、暴言を吐かれたりするなど、子どもの心身に深刻な影響を及ぼしかねない「不適切な保育」が問題になっている。静岡県裾野市の虐待事件をきっかけに、こども家庭庁が全市区町村を通じ、初の実態調査の結果をまとめた。再発防止に向けたガイドラインも策定。国と自治体、保育施設は情報交換と議論を絶やさず、子どもをしっかりと守れる仕組みづくりに取り組むべきだ。[全文を読む]