社説

少子化対策たたき台 現状の延長財源も不明

 政府は、岸田文雄首相が唱える「異次元の少子化対策」の実施に向け、国民的議論のたたき台とする「試案」を公表した。児童手当の所得制限撤廃や育児休業給付引き上げなどで、子育ての経済的支援を強化する。しかし「異次元」というより、既存制度を改良、拡充する政策を網羅した「現状の延長線」の印象が強い。児童手当拡充だけで兆円単位の巨額なお金が必要になるが、財源確保の結論は今夏まで棚上げになっている。

 目の前の統一地方選、衆参5補欠選挙向けのアピール先行と言われても仕方あるまい。財源の裏付けがなく、政府を縛る閣議決定も経ない試案としたことで、どこまで実現するか政府の本気度に疑念も生じる。

 今後3年間で集中的に取り組む「こども・子育て支援加速化プラン」は、子育てへの経済的支援を最優先し、「現金給付」を強化する。予算規模での目玉は児童手当拡充だ。現在は中学生までを養育する親に支給され、高所得世帯は減額や不支給になる。所得制限撤廃、高校卒業まで対象拡大、多子世帯加算の拡充を実施するとした。ただ金額など具体策は財源確保と不可分として明示を避けた。

 出産費用への保険適用検討、自治体による子ども医療費助成への支援、学校給食費無償化への課題整理、授業料や奨学金を通じた高等教育費の負担軽減なども盛り込んだ。子育ての経済的不安解消に手を尽くす姿勢は評価したいが、「大盤振る舞い」になっていないか。少子化対策の効果があるか十分精査すべきだ。

 男性の育休取得率は2021年で13.97%。加速化プランは、30年に85%に引き上げると高い目標を掲げた。本県の男性の育休取得率は17年の3.9%から21年には15.1%に伸び、全国平均を上回るがまだまだ低い水準だ。

 実現に向け、雇用保険から支出される育児休業給付などを最大4週間、手取り収入の実質10割まで手厚くする対策を打ち出した。ただ、雇用保険財政が厳しい中「給付を支える財政基盤を強化する」との意気込みだけでは先行きが不安だ。職場環境の整備など雇用者への働きかけも必要になる。

 育児休業給付をもらえないパート労働者が受給できるよう雇用保険適用拡大を検討する。一方で、自営業やフリーランスへの給付金創設は見送って育児期間中の社会保険料免除などで対応する。親の働き方の違いで支援に大きな差が出ることがないよう、知恵を絞ってほしい。

 今回の試案は「年収の壁」見直しにも触れている。サラリーマンの配偶者に扶養されるパート従業員が、扶養から外れて社会保険料を負担しなければならなくなる「年収106万円」の壁を超えても就労を抑制しないよう支援策を導入するという。政府が旗を振って賃金が上昇しても、壁を考慮して労働時間を抑えれば、家計収入は増えず、企業の人手不足も解消されない。共働き世帯割合が全国トップクラスの本県にとっても関心の高い項目だ。

 壁を本気で解消するには社会保険、税制度の大改革が必要だが、試案に具体論はない。4月1日に発足する「こども家庭庁」は早速、調整力を問われる。

(2023/04/01付)
[PR]
最新7日分を掲載します。
[PR]