社説

戦術核のベラルーシ配備 ロシアの暴挙、非難する

 ロシアのプーチン大統領が、隣の同盟国ベラルーシに戦術核兵器を配備すると公表した。ベラルーシはウクライナ侵攻の拠点であり、戦場に近接する。ベラルーシが加盟する核拡散防止条約(NPT)の精神にも反する。新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止に続き「核のどう喝」を一段と強める暴挙であり、容認できない。

 軍事的観点に照らせば、ともにウクライナに隣接するロシアからベラルーシに核兵器を移したところで、すぐに使用の危機が切迫するかどうかは議論の余地がある。プーチン氏には核使用をためらわない姿勢を見せつけることで、ウクライナへの軍事支援を鈍らせ、支援各国の足並みを乱す狙いがあるに違いない。脅しに動揺せず冷静に対処したい。

 5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)を被爆地の広島で主催する日本の役割は重大である。ウクライナの首都キーウを訪問して、侵略を容認しない姿勢を示した岸田文雄首相の指導力と調整手腕が問われる。

 ウクライナ東部戦線でロシア軍は、支配地域の大幅な拡大に成功していない。民間の軍事組織と正規軍の対立、新たに動員された兵士の士気や練度の低さに加え、兵器や弾薬の不足が指摘される。

 これに対してウクライナは、米国やドイツなどから新たに戦車などの供与を受けつつある。スロバキアは旧ソ連製戦闘機ミグ29の供与に踏み切った。ウクライナにとって兵器供与の規模は決して十分ではないが、孤立を深めるロシアには深刻な脅威に映るらしい。プーチン氏が強硬姿勢を見せた背景には、各国の軍事支援を受けたウクライナが反撃に転じた場合、ロシア軍が後退を余儀なくされる事態への危機感があるとみられる。

 米国などはロシアを過度に刺激しないために、兵器の質と量を調整している。一方でポーランドやバルト諸国は、より軍事支援に積極的だ。支援国同士の協調が大切だろう。

 あらゆる手段を用いてロシアによる核兵器使用を抑止し、惨禍を予防する必要がある。だが、ここで西側諸国の支援と結束を断じて緩めてはならない。一方的な侵略戦争を容認することになるだけではない。これまでの膨大な支援が無に帰す恐れさえあるからだ。

 1991年末のソ連崩壊の際、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに核兵器が残った。これらをロシアに集めて一元管理することで危険な核拡散を回避する必要があった。核兵器を放棄するベラルーシやウクライナなどの安全を核保有国の米国、英国、ロシアが保障したのが、94年のブダペスト覚書である。

 ロシアは2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合したことで、この覚書を破り、当時のG8から追放された。そのロシアが今回、ベラルーシに戦術核を配備することは、30年余り前のソ連崩壊時まで歴史の流れを逆行させる愚かな行為でもある。

 ベラルーシでは3年前、ルカシェンコ大統領の強権支配に対する野党勢力の街頭行動が激化した。国民の不満が再び危険な形で爆発するかもしれない。そのような国に核兵器を置いてはならない。

(2023/03/28付)
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