社説

大義なき衆院解散論 重要課題の審議が先だ

 岸田文雄首相が議長を務めた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が幕を閉じた直後、永田町で衆院の早期解散論が広がったかと思えば、ここにきて先送り論が浮上している。

 政界の関心が次期衆院選の実施時期に集まっているが、肝心なのは、岸田首相が、国民の審判を仰ぐ大義を示せるかどうかである。まずは国会審議を通じ、衆院選で問う課題と具体的方針を明らかにしなくてはならない。

 サミット前から内閣支持率は回復傾向にあり、期間中に一部報道機関の世論調査で支持率が上昇した。自民内では6月21日に会期末を迎える今国会中の解散論が強まった。後押ししたのが、岸田首相の自民総裁再選戦略だ。総裁任期が切れる来年9月までに衆院選で勝利すれば、無投票再選の可能性も出てくる。首相は今年1月のBS番組で、国民の信任を得てから2期目に入るべきではないかとの質問に「そうだと思う」と答えている。

 議院内閣制の下、現状は自民総裁がそのまま首相の座に就く確率が高い。その是非を総裁選前に、政権選択になる衆院選で国民に判断してもらうという考え方は一理あろう。とはいえ、衆院議員の任期は2年以上残り、今秋に見込まれる臨時国会や来年の通常国会での解散でも総裁選には間に合うはずだ。その分、国会論戦に時間をかけられる。

 しかし、年末に向けては、防衛力強化の財源を賄う増税幅や、少子化対策費への充当が検討されている社会保険料の上乗せ額が固まっていく。

 そうなると、選挙に不利に働くとの懸念があり、早期解散論につながっているとの見方が専らだ。首相も国会質疑で、衆院選前に増税の規模や開始時期などを明らかにするよう要求されたが、曖昧な態度だった。

 自民内には、野党の内閣不信任決議案提出が、衆院解散の大義になるとの意見がある。だが、国民に負担増を強いる施策の当否こそ、衆院選で正面から掲げるべき争点だ。中身が不明確なまま、首相が衆院選に踏み切れば、解散権を恣意(しい)的に行使したとのそしりは免れまい。

 首相の姿勢と相まって与野党が選挙準備を加速しているが、サミット後、東京都の小選挙区の候補者調整で自民、公明両党の協議が決裂。公明が東京で自民候補を推薦しない方針を打ち出したことから早期解散に否定的な声が出始めた。

 公明票がなければ、自民候補の当選が危ぶまれ、都外の選挙区でも公明支持層の投票行動に影響しかねないためだ。早期解散論も、先送り論も「党利党略」に基づく発想と言わざるを得ない。

 共同通信の最新の世論調査で、岸田内閣の支持率は47%と、前回4月から横ばいにとどまった。首相秘書官である長男が、公邸で記念撮影するなど不適切な行動をしていたことへの批判に加え、マイナンバーカードの利用拡大に伴うトラブル続出も影響したのは間違いない。

 今国会中の解散については60%が「実施すべきではない」と回答した。政府は国民生活に関わり、喫緊の課題であるマイナンバー問題の再発防止とともに、防衛増税など諸懸案について国会での審議を充実させるべきだ。

(2023/05/30付)
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