社説

イランのイスラエル攻撃 報復の連鎖、食い止めよ

 イランが敵対するイスラエルに初の直接攻撃を行った。中東の軍事大国同士の衝突は、地域全体を巻き込んだ戦争に発展する恐れがある。米国と欧州、そして日本は全力を挙げて両当事国に自制を求め、報復連鎖の拡大を絶対に阻止しなければならない。

 イランは1日に在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことに対する報復として、300を超える弾道ミサイルや自爆型無人機などをイスラエルに向け発射した。ほとんどはイスラエル軍などにより撃墜されたが、民間人の負傷者も出た。

 大使館攻撃では、レバノンやシリアに展開するイラン革命防衛隊の部隊将官らイラン人7人が死亡した。イスラエルは関与を否定も肯定もしていないが、シリア領内での空爆は常態化しており、関与は極めて濃厚だ。死亡した将校がレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラ支援の中心人物だったことから、イスラエル北部への攻撃を続けるヒズボラにダメージを与え、その背後にいるイランをけん制する目的だったとみられる。

 イランは1979年のイスラム革命以来、同じイスラム教徒であるパレスチナ人を抑圧するイスラエルを宿敵と位置付け、国家の生存権すら認めていない。それでも長年直接戦火を交えることはなく、イスラエルとはヒズボラを使った“代理戦争”を続けてきた。制御不能に陥る事態を双方が回避してきたと言えるが、大使館攻撃が一線を越えた。ウィーン条約で「不可侵」とされる公館への攻撃は重大な国際法違反だ。

 最高指導者ハメネイ師は「われわれの領土に対する攻撃」と受け止め、報復は不可避だった。とはいえ、大量の兵器を動員した一斉攻撃はあまりにも無謀で、無責任な行動だ。国際的な孤立を一層深める可能性が高いことを知るべきだ。

 当然イスラエル側にも非はある。中東地域の不安定化につながると知りながら、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を長引かせた。民間人の犠牲者を承知の上でのガザ攻撃は、ヒズボラによるイスラエル領内攻撃に格好の口実を与えていた。イラン大使館攻撃に関与していたなら責任は一層重い。

 一方、イランはミサイルなどがイスラエルに到達する前に攻撃開始を発表した。イスラエル側に、対処するための時間を与えた形だ。そこには自国のメンツは保ちながら、被害は最小限に抑え事態を収束させたいという裏のメッセージがある。イスラエルはこれを読み取り、過剰反応を自制すべきだ。米国がイランへの反撃に不参加をいち早く表明したのは、イランの意図を理解したからだ。

 国連安全保障理事会はイスラエルの要請を受け緊急会合を開催。先進7カ国(G7)もオンライン首脳会議で対イラン制裁を検討するなど国際社会の対応は素早かった。しかし引き金となった大使館攻撃の真相と責任を軽視してイラン非難一辺倒となれば、「二重基準」のそしりは免れまい。

 日本は国連とG7の枠組みを重視しながらも産油国であるイランと長年、友好関係を維持してきた。中東諸国の信頼も厚い。欧米に同調するだけでないバランスの取れた危機外交を期待したい。

(2024/04/16付)
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