社説

物価高対策に予備費 節度ある支出が必要だ

 国会審議を経る必要がない予備費の安易な活用は節度を欠いた歳出であろう。

 政府は、地方自治体向け交付金の大幅増額や低所得世帯への現金給付を柱とした追加の物価高対策と、その財源2兆円余りを2022年度予算の予備費で全額賄うことを決定した。食品を中心に値上げが続き、低所得世帯の負担を和らげる手だては必要だ。しかし、巨額対策への充当は予備費の趣旨にそぐわない。

 対策について、鈴木俊一財務相は「エネルギー、食料品を中心に物価上昇が続いており、影響の緩和へ追加策を講じる」と説明した。ガソリンや電気、都市ガスには既に負担緩和策が打ち出されており、追加策の目的の一つはこれらを補う点にある。

 その目玉となるのが自治体に配る「地方創生臨時交付金」への1兆2千億円の上乗せだ。このうち7千億円をエネルギー・物価高対策に使えるようにし、具体的には地方に多いLPガスの料金低減や、工場など特別高圧電力の契約企業に対する支援を実施する方針だ。

 ここで注意したいのは、交付金が国の想定した支援に確実に結び付くかどうか不透明な点である。

 対策で挙げたエネルギー分野は今まで支援の対象外だったため、費用の軽減効果が見込めよう。だが、特別高圧の契約企業の中には円安などで業績好調な大企業も含まれるとの指摘がある。具体的な使途は自治体が決める仕組みとなっており、支援の対象が明確にならないまま、商品券などに使われることも想定される。同交付金を巡っては会計検査院が、効果の検証が不十分とかねて指摘しており、国と自治体に改めてその徹底と結果の公表を求めたい。

 対策は加えて同交付金に「低所得世帯支援枠」を新設し、5千億円を投じる。住民税非課税世帯に3万円の支給を想定している。これとは別に国から低所得の子育て世帯を対象に子ども1人当たり5万円を給付する。

 最近の値上げは食費への支出割合が高い低所得世帯に重荷となっており、早期の支給が望まれる。ただ住民税非課税の多くは高齢者で、蓄えに富む世帯も少なくない。ここでも対策が的を射ているかどうかが問われる。一方、新型コロナウイルス対策には、自治体が病床確保などに活用できる「緊急包括支援交付金」を7300億円余り増額した。

 総額は2兆2226億円にも上り、急場しのぎでまとめられた点と合わせ、「ばらまき色」が拭えない。4月の統一地方選と衆参補欠選挙を有利に運ぶためと見られても仕方あるまい。

 軽視できないのは政権の「ポケットマネー」のような予備費の使い方が常態化している点だ。憲法と財政法が定めるように予備費は本来、自然災害への対応など「予見し難い予算の不足」のためにある。従来は年5千億円程度だったがコロナ禍対応で近年膨張し、成立した23年度予算にも計5兆円が盛り込まれた。

 国会審議を経ずに内閣の裁量で決められる予備費はあくまで「財政民主主義」の例外だ。コロナ禍が収束へ向かう今、財政規律の回復のために予備費の額と使い方も以前の姿へ戻すべきだ。

(2023/03/30付)
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