社説

経済安全保障 適切な関与で国益守れ

 政府は先端技術の開発や、半導体など戦略物資のサプライチェーン(供給網)の強化に向けた経済安全保障推進法案を通常国会に提出する。国家運営上、重要な産業や技術を国が直接育成・保護し、戦略物資の国内生産や海外調達の安定化に資金拠出する。

 ハイテク分野の覇権争いで米中が激しく対立、経済活動と安全保障は密接不可分となり、既存の制度で国益を守れるかおぼつかなくなった。国家存立の基盤となる技術や戦略物資の確保・保全で実効性を担保するためには、一定程度の規制強化や国家介入は必要だろう。

 ただ過剰な対応は市場機能や自由貿易を損ね、企業の成長を阻害する恐れもある。企業活動の制約につながるような措置には細心の注意を払い、抑制を利かせなければならない。「経済安保」を拡大解釈した乱用は慎むべきだ。

 経済安保推進法案には技術開発支援、供給網強化に加え、情報通信などの基幹インフラ企業が導入する重要設備の安全性の事前審査も盛り込まれる。政府の関与を強め、サイバーセキュリティーの一段の強化を目指す。

 さらに技術情報の流出回避のための特許の非公開化制度も整備する。防衛省や国家安全保障局が審査して非公開技術を選定し、対象となった出願者には特許収入に代わる金銭補償を導入する。併せて情報の保全義務に違反した場合は罰則を科すことも検討している。

 いずれについても大枠としての方向性は妥当だろう。ただ、個別案件で具体的な措置を講じる場合、国と対象企業、業界の考え方が異なる場合も想定される。丁寧な説明、可能な範囲での情報公開が大事になる。安全保障政策と企業の経済活動の関係をどう整理し、何を優先するのか。具体策もさることながら、その基本的な理念も重要だ。

 法案審議に当たって、野党には本質を見抜く力が求められる。変化の激しい国際情勢、安全保障環境、企業経営の現状を詳しく分析した上で、政府側から詳細な情報を引き出してほしい。運用次第では企業活動が大きくゆがめられたり、市場で政府の存在が肥大化したりする可能性もある。政府の過度な介入に対する歯止めなどについてもしっかり議論しなければならない。

 経済安保という新しい概念が登場してきたのは、台頭著しい中国の存在が大きいが、それだけではない。ロシアと米国の間でも緊張が高まっている。こうした国際情勢の緊迫化に加え、テロや新型コロナウイルスのような感染症のパンデミック(世界的大流行)なども供給網の混乱や重要物資途絶につながりかねない。

 コロナ禍の初期に経験したマスク不足、ワクチン確保の遅滞は、先進国であるはずの日本の弱点をさらけ出した。半導体不足による自動車減産も日本経済を揺さぶった。部品などの「供給制約」は米国で物価上昇をもたらし金融市場にも影響を与えている。脅威はいつどんな形で出現するか分からない。

 運用には慎重な姿勢が必要だが、同時に実効性を上げるためには変化に応じた柔軟な対応も求められる。官民で適切に取り組みたい。

(2022/01/21付)
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