社説

フラワー長井線の設備更新 まちづくりを鉄路から

 南陽、川西、長井、白鷹の置賜2市2町を結ぶ第三セクター鉄道「フラワー長井線」は近年、設備劣化によって運休や遅延が頻発し、乗客の利便性低下を招きかねない状況にある。運営する山形鉄道(長井市)と県、沿線4市町は、国の計画認定を受け、本年度から段階的に信号機や枕木などの設備を更新する。安定輸送の確保に本腰の入った今こそ、官民挙げて利用拡大に向けた知恵も絞りたい。

 地域の足として1世紀にわたり住民の生活基盤となってきた長井線は、JRから山形鉄道に運営主体が移行して36年が経過した。開業初期に新調した車両や信号機器などは老朽化が進み、設備によってはJRの前身の旧国鉄時代から継続使用するものもある。ハード面は限界に近づいており、昨冬に信号装置の故障で全線運休が数日間続くトラブルが発生するなど、定時運行に支障が生じている。

 長井線は2016年度に経営難の打開策として「上下分離方式」を導入した。運行を担う主体(上)と、投資が必要なレールや車両などの鉄道インフラの維持管理を手がける主体(下)を分けて運営する仕組みで、県と沿線4市町が下を担う。山形鉄道が運行に専念できる体制を整えた一方、設備修繕の費用などはかさみ、国の優遇助成終了後の自治体による施設整備の負担額は年8400万円から1億800万円に増えた。

 老朽機器の更新が待ったなしの状況で、鉄道事業の再構築を図る実施計画が再度、国に認められた意義は大きい。16年度から5年間の計画以来の認定で、再び国の手厚い支援を受けることができるようになった。一度計画が終了し、再度認定を受けたケースは信楽高原鉄道(滋賀県)に続き全国2例目となる。

 今回の計画は24年度からの10年間で、上下分離方式を継続して乗客の利便性向上や安全性確保に取り組む。利用拡大策も含めた総事業費約21億2千万円のうち、約8億7千万円超となる各種設備の更新費用に対し、3分の1だった国庫補助率は最大2分の1にかさ上げされる。

 主な設備更新は、次世代信号システムの導入に約3億3千万円(24~26年度)▽車両の購入に約3億円(26~29年度)▽枕木の木製からコンクリート製への交換などに約2億4千万円(24~33年度)。信号システムはケーブルを使った通信から無線式に置き換えることで地上設備のスリム化や遅延防止を図る。車両は5両の更新を想定し、中古車両の購入による費用軽減も検討する。

 設備更新を追い風に存続への英知も求められる。長井市は長井駅舎と一体化した市役所庁舎に加え、近くに市立図書館や子育て世代活動支援センターなどが入る複合施設・市遊びと学びの交流施設「くるんと」も整備した。長井線を重視する姿勢は鮮明で、まちづくりの機運を沿線のマイレール意識の醸成につなげたい。

 車社会が進展した地方において、ローカル線を取り巻く環境は全国的にも厳しく、鉄路の必要性を広く理解してもらうことは容易ではない。それでも幾度もの廃線危機を乗り越えた背景に沿線住民や県民の後押しがあったことは事実。改めて長井線に目を向け、存在意義について考えを巡らせてみてはどうだろうか。

(2024/04/17付)
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