社説

豪雨被害と高齢者 知恵を共有、命を守ろう

 九州から本州にかけて広い範囲で雨が降り続く中、記録的な大雨に見舞われた熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」で、浸水のため入所者14人が命を落とした。2016年8月の台風10号では、岩手県岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」が浸水して入所者9人全員が亡くなり、09年7月に山口県防府市で大雨により発生した土石流で特養ホームの入所者7人が死亡した。施設の高齢者が災害発生時に逃げ遅れ、犠牲となる事態を繰り返さないためにも、対策の強化が求められる。

 近年は地球温暖化の影響もあって「数十年に1度」の大雨が各地で頻繁に観測されている。千寿園の悲劇を受けて、本県は県内の高齢者福祉施設の管理者に対し、避難経路の点検や早急な避難確保計画の作成などを緊急通知した。「過去に災害がなかったから大丈夫」といった常識は通用しなくなっていることを肝に銘じたい。

 球磨村は3日夜、避難勧告を出し、球磨川の水位が急激に上昇し「氾濫危険水位」を突破した4日未明には避難指示に切り替えた。千寿園にはエレベーターがないため、入所者1人を4、5人がかりで2階へと運んでいたが、窓ガラスが割れて一気に水が入ってきたという。

 千寿園は川の氾濫で浸水する恐れのある「要配慮者利用施設」だった。岩泉町で多くの高齢者が犠牲になったのをきっかけに、これらの施設は法律で避難確保計画の作成や避難訓練を義務付けられており、年2回の訓練を実施。地域住民らの協力も得て入所者を2階に移動させたり、施設外に運び出したりする手順も確認していた。

 4日未明は職員に地元の協力者を加えた約20人態勢だったが、時間がかかり入所者全員を避難させるのは無理だった。避難の手伝いに駆け付けた地元の男性は水が一気に入ってきた時に「必死に入居者の腕をつかんだが、助けられなかった」と涙を流した。高齢者避難の難しさが浮き彫りになった形だ。

 高齢者福祉施設には寝たきりや車いすの人など自力で動けない入所者が多く、もともと迅速な避難は厳しい。さらに想定外の事態や混乱が重なる過酷な状況下で、高齢者をいかに守るか。施設同士で災害の経験を共有して避難確保計画を練り直すのが一つの方法だろう。

 課題は、肝心の要配慮者利用施設で避難確保計画作りがまだ十分には進んでいないことだ。作成済みは昨年末時点で全体の約36%にとどまる。避難先確保が困難で、専門知識が不足していることなどがネックになっているとされ、国や自治体による後押しが必要だろう。背景に、施設の立地条件を指摘する声もある。地元から敬遠されがちで地価が安いなどの理由もあって、結果として浸水地域など危険な場所での立地を余儀なくされる例があるという。

 他に、自宅から避難しようとして命を落とす高齢者も目立つ。市町村は「避難行動要支援者」の名簿を作り、個別の避難計画策定を進めている。希望があれば災害時、1人につき2人以上の支援者を付けるが、こうした態勢の拡充も求められる。

(2020/07/10付)
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