社説

マイナンバーの活用 時間かけ慎重な議論を

 政府はマイナンバーと預貯金口座のひも付け義務化などの検討を始めた。災害時の迅速な現金給付などが狙いだが、政府が国民の個人情報を把握することには不安が強い。時間をかけて慎重に議論するよう求めたい。

 高市早苗総務相は先月、マイナンバーと1人1口座のひも付けの義務付けを検討すると表明した。個人口座の事前登録により、災害時などでも即時に個人単位で多様な現金給付が可能になるという。当初は全口座の義務化を考えていたが、個人資産の監視が強まるなどの懸念に配慮して見送った。希望者には複数口座の登録を認める方針だ。

 政府はマイナンバーカードと運転免許証の一体化も検討しており、現在は社会保障、税、災害対策の3分野に限定されているマイナンバーの活用拡大にかじを切った形だ。口座のひも付けについては、来年の通常国会への関連法案提出を目指し、具体的な制度設計を進める。

 口座のひも付け構想のきっかけは、新型コロナウイルス対策として一律に10万円を配る「特別定額給付金」のオンライン申請で自治体職員が手作業の確認を強いられるなどして支給が遅れたことだ。今月1日までの全国の給付率(世帯ベース)は全体の74.4%にとどまっている。これに対し、本県の給付率は先月26日現在で96.9%に達した。

 米国では、経済対策として国民への現金給付を決めてから短期間で、社会保障番号と結び付けられた口座に現金が振り込まれた。他の主要国でも、個人番号と口座などの個人情報がリンクされ、現金給付などに利用されている国が多い。日本は世界の流れから取り残されているとの指摘もある。

 政府は現金給付が遅れたことへの反省を踏まえて、預貯金口座のひも付け義務化の方針を打ち出した。すでに証券口座はマイナンバーとの連結が義務付けられており、その延長線上にあると考えれば、問題はないようにも見える。しかし、国民の間には、個人資産が監視されるなどとして、懸念する声が相次いでいる。今後、マイナンバーの活用範囲の拡大が進めば、詳細な個人情報が政府に把握される可能性がある。個人情報の漏えいや侵害の恐れは否定できない。

 事実、米国では政府機関や信用情報会社などから社会保障番号が流出する事件がしばしば発生し、クレジットカードが勝手に作られるなどの被害が絶えない。

 マイナンバーの活用拡大を目指すなら国民の信頼を得るために徹底した情報管理体制を構築することが欠かせない。

 一方、サラリーマンに不利となっている課税の不公平を是正するために、マイナンバーと全口座のひも付けをするべきだとの主張もある。国民の声はさまざまだ。まず希望者に限って口座のひも付けをするのが現実的ではないだろうか。

 マイナンバー制度は2016年に始まったが、利便性が低いために利用が進まず、カードの交付率は先月1日時点で全国平均が16.8%、本県は12.6%にすぎない。利便性の向上は必要だが、個人情報の保護とどう両立させるかという問題に簡単に結論は出せない。事を急がず、丁寧な議論を重ねる必要がある。

(2020/07/04付)
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