社説

30年迎える山形映画祭 触れよう、世界の最前線

 30年にわたって、山形から世界にドキュメンタリー映画の最前線を発信し続けてきたことには大きな価値がある。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2019が10月10日に開幕する。1989年から2年に1度、山形市で開催し今年で30周年を迎える。今年は17日までの期間中、世界の現状を捉えた170作ほどが上映され、山形は「映画の都」になる。

 この映画祭がいかに最前線のドキュメンタリー情報を発信してきたか、一例を挙げよう。2年前の映画祭で「ニューヨーク公共図書館―エクス・リブリス」という作品が上映された。ドキュメンタリー界の巨匠フレデリック・ワイズマン監督(米国)が、本館と数多くの分館から成るニューヨーク公共図書館のさまざまな活動を捉えた新作だった。所蔵資料に関するマニアックな質問にてきぱきと答えていく司書の姿だけでなく、作家らの講演、室内楽の演奏会、子ども向けの理科工作教室、さらにはホームレス問題にどう対処するかといった議論まで幅広く紹介し、図書館が住民の生活に果たしている役割を活写する。この作品が日本の劇場で公開され、話題を呼んだのはようやく今年に入ってからだった。

 映画祭のメインプログラム「インターナショナル・コンペティション」部門には今年、123の国と地域から過去最多となる1428本の応募があり、上映される15作品が選ばれた。女性監督の作品が共同監督を含めて過去最多の9本となり、世界の女性作家の層の厚さが表れたのが特徴だ。ドメスティックバイオレンス(DV)や性暴力がはびこる中米エルサルバドルで、演劇を通してトラウマ(心的外傷)を乗り越えるシングルマザーの姿を追った「ラ・カチャダ」など、貧困や虐待、迫害といった抑圧から逃れ活路を見いだそうとする人々の姿を描いたテーマが目立つという。

 加えて、これまで山形で高く評価されてきた作家たちの新作がコンペ部門に並ぶのも興味を引く。先のワイズマン監督は「ニューヨーク公共図書館」に続いて撮った「インディアナ州モンロヴィア」で参戦。中国東北部の工場地帯にカメラを据えた9時間超の大作「鉄西区」と、新聞記者だった女性が収容所に送られた苦難の人生を振り返る「鳳鳴(フォンミン)―中国の記憶」で2度コンペ部門最高賞に輝いた王兵(ワンビン)監督は、かつて中国共産党に粛清された人々について生存者が回想する8時間半の「死霊魂」を引っ提げて挑む。

 30年の歴史の中では苦難もあった。当初は山形市と、文化団体の代表者や映画を愛好する市民らによる実行委員会が共催していた。それが2007年、実行委が市から独立してNPO法人として運営する方式に変わった。この事態を危惧した海外の監督らが緊急メッセージを出す場面もあった。逆にいえば、映画祭がそれだけ世界に認められる存在になっていたということだ。

 2年前には国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「創造都市ネットワーク」に、山形市が国内で初めて映画分野での加盟が認められた。山形映画祭に代表される映像文化が、改めて高く評価されたことになる。10日からの8日間、多くの市民、県民に映画祭の魅力に触れてほしい。

(2019/09/17付)
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