山形大医学部50周年・地域医療の砦(5・完) 持続可能な体制構築へ

2023/11/20 11:49
創立50周年を迎えた山形大医学部。持続可能な医療提供体制構築に向け、挑戦を続ける=1983年9月、山形市(同学部提供)

 慢性的な医師不足と地域間の偏在、病院の経営改善、高齢化による在宅医療の需要拡大、医師の働き方改革への対応など地域医療は課題が山積する。その解決に向け、今年創立50年を迎えた山形大医学部の役割は大きくなっている。上野義之学部長をはじめ関係者に、今後50年を見据えて持続可能な医療提供体制を構築するために医学部が果たすべき使命などを聞いた。

 県医師会の中目(なかのめ)千之(ちゆき)会長は「東北で最も遅い医学部の開設だったが、東北大に次いで高いレベルの教育や研究を展開してきた。特にこの10年の発展は目を見張るものがある」と語る。

 来年度入試から、地元出身者を対象に県内勤務を要件とする「地域枠」が拡大される。「やみくもに枠を増やすのではなく、これまで通り研究の進展と高度な医療提供に努めることが大切だ」と強調。重粒子線がん治療やコホート研究に代表される先進性と独自性の取り組みの継続が、医療の道を志す若者にとって大きな魅力になると期待する。

 在宅医療分野では、日常的に人工呼吸器やたんの吸引が必要な「医療的ケア児」の支援充実に向け、医学部のリーダーシップを求める。県医師会は、かかりつけ医と基幹病院の連携による医療的ケア児の在宅診療を展開しており、山大医学部付属病院に昨年設置された本県の支援拠点「医療的ケア児等支援センター」について、人員補充などの機能拡大を提言する。

歩み評価

 同大医学部4期生の阿彦忠之県医療統括監は、自らの学生時代を振り返りつつ「臨床実習を重視し、地域の現状に触れる機会を多く設けた教育が、本県の医療を支える基盤となっている」と、医師養成機関としての歩みを評価する。一方、働き方改革で各地病院への当直、外来などの医師応援派遣が困難になる可能性を示唆し「救急外来や時間外診療の適正な利用と今後の在り方について、地域の理解を得ながら議論する必要がある」と語る。

 「県民に『医学部があってよかった』と感じてもらえる医療体制をつくることが、何よりも大切だ」。上野学部長は、少子高齢化に伴う急性期から回復期・慢性期への医療需要のシフトなど、時代の流れに敏感に対応し、医療機関の役割分担と人員配置の適正化に努める必要性を強調する。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)推進による遠隔診療の普及などで医師の業務効率化を図る一方、患者が自分らしい人生を送れるよう、一人一人に寄り添った医療を提供するための人員は十分に確保すべきだと指摘する。「住民との対話の機会を増やして県内の医療ニーズを把握し、どの地域でも、安心して暮らすことができる環境を整備しなければならない」と力を込める。

生きる絆

 医学部は、2002年に立ち上げた蔵王協議会や、県地域医療対策協議会を通じ、県内各地の病院や医師会、保健所、行政と手を取り合い、医師の適正配置などに取り組んできた。「困難な時代だからこそ、山形大が育んできたステークホルダー(利害関係者)との絆が生きてくる。連携を一層強固なものにし、一丸で課題と向き合っていく」。上野学部長は持続可能な地域医療の実現を目指し、50年で培った知見や経験を共有しながら、本県の取り組みをけん引する決意を語った。

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