さびついたブロンズに、むしばまれたように空いた無数の穴が目を引く。鶴岡市出身の空間デザイナー・安藤北斗さん(40)=神奈川県鎌倉市=らが手掛けた椅子「Drought(ドラウト)」が、世界有数のデザイン博物館「ビトラ・デザイン・ミュージアム」(ドイツ)に収蔵された。乾燥をテーマにした斬新な手法が評価され、安藤さんは「世界的に知られる博物館に認められ、うれしい」と喜んだ。
この椅子は、安藤さんと林登志也さん(42)が、2013年に設立した東京のデザインスタジオ「we+(ウィープラス)」の作品。機械に頼らず、自然に逆らわないしなやかなものづくりをコンセプトに制作を始め、17年にイタリア・ミラノのギャラリーで初めて発表した。
樹脂にろうを混ぜて、消臭剤などに用いる直径約1センチの吸水性ポリマーを加え、細長い長方体の型を作る。吸水性ポリマーが乾燥して次第に小さくなって落ち、ランダムに穴ができる仕組みだ。その型に、林さんの出身地である富山県の鋳物技術を活用し、ブロンズで鋳造して仕上げた。
安藤さんらが昨年6月にスイスで開かれたトークショーに参加した際、活動に注目していた同ミュージアムの担当者と出会い、同12月に収蔵が決まった。
安藤さんは「高度成長期は大量生産が当たり前で、捨て続けたらどうなるか考えていなかった。その結果、今は埋め立ての問題を抱えている。30年前と現在、未来の社会は異なるし、デザイナーの役割も変わってくる。社会に対して問いを投げかけられるデザイナーが求められる」と見据える。さらに「土着の文化や産業の見えない部分に焦点を当て、新しいアプローチで新たな価値観を生み出したい。簡単に消費されないものづくりを考えていきたい」と語った。
メモ
家具のコレクションで知られる「ビトラ・デザイン・ミュージアム」は、家具会社「ビトラ」の工場敷地内に1989年にオープンした。国内外の美術館との共同企画や巡回展に力を入れる。日本人では倉俣史朗さんや吉岡徳仁さんら世界的に活躍するデザイナーの作品が収蔵されている。
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