酒田市松山地域に伝わる県無形民俗文化財・松山能の「雪の能 まつやま大寒能」が22日、同市松山城址館で上演された。2年ぶりとなり、待ちわびた約70人の市民らが幽玄の世界を堪能した。
主人に縛られても蔵の酒を飲もうとする太郎冠者(かじゃ)、次郎冠者の掛け合いが楽しい狂言「棒しばり」に続き「安達原(あだちがはら)」が演じられた。前段では山伏一行が宿を借りようと訪れた庵(いおり)で、あるじの女が糸を繰りながら世の無常を嘆く姿を静かに表現。クライマックスでは、一転して謡(うたい)と囃子が激しさを増す中、山伏が本性を現わした鬼女と相対する。舞台いっぱいに繰り広げられる迫力満点の立ち回りに、観衆は惜しみない拍手を送っていた。
松山能は年3回の公演を行っているが、新型コロナウイルス感染拡大で2020年春以降は全て中止となった。演能団体・松諷社(しょうふうしゃ)(榎本和介会長)は感染症対策を講じながら週2回の稽古を続け、この日も役者以外はマスクを着けて舞台に上がった。榎本会長は「楽しみに待ってくれる大勢の前で演じられて本当にうれしい。後継者や資金の不足など厳しい状況下、やめてしまうのは簡単だが、改めて次代に伝えようとの思いが強まった」と話した。
松山能は寛文年間(1661~73年)に江戸勤番の松山藩士が能楽を習得したことに始まり、明治以降町人に伝わったとされる。
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