真実の跡~県警科捜研のスペシャリスト(1)科学係 微物が示す犯人の動き

2022/1/3 14:40
「微物の鑑定で容疑者の行動を明らかにできる」と話す化学係の専門研究官伊藤さよさん(奥)と、指導を受け、電子顕微鏡を操作する研究員の荒木渉さん=山形市・県警科学捜査研究所

 県警の科学捜査研究所(科捜研)は、事件事故の現場から採取された資料や実況見分した現象を科学の力で鑑定・検査し、犯罪の立証や真相解明を支える集団だ。複雑かつ巧妙化する手口。さまざまな条件で発生する火災や交通事故。捜査の手を逃れるため証拠を隠し、うそをつく容疑者―。最新の機材と技術、知識を駆使し、残されたモノや文字、記憶から、真実に迫るスペシャリストたちの姿を追った。

 「特殊な物が付いていないでしょうか」。県警科学捜査研究所(科捜研)の化学係に鑑識から透明なシートが持ち込まれた。2014年6月、白鷹町の民家で家主の男性が殺害された。シートは男性の首の微物を採取したものだった。

 化学係を率いる専門研究官の伊藤さよさん(48)=山形市出身=は複数の黄色い繊維片に気付いた。1センチから数ミリ。その後、トイレの配管から裁断された軍手が見つかり、洗面台のはさみにも繊維片が付着していた。材質、色、形状を分析し、「いずれも軍手手首部分の繊維と同種」と結論付けた。

 事件が動いたのは4年半後。県警は同居していた元妻を逮捕した。鑑定を基に、検察は「元妻が男性をバールで殴った後、首を絞め、着用していた軍手を洗濯し、はさみで裁断してトイレに流した」と主張し、裁判所も認定した。「動かぬ証拠になるはず。鑑定が事件解決の役に立ってほしい」。公判直前まで家中の繊維を調べていた苦労と熱意が結実した。

 繊維はDNAのように個人を特定できない。だが、伊藤さんは言う。「繊維が『そこにある』のには必ず理由がある。微物の鑑定によって犯行現場の容疑者の行動を明らかにできる」

 化学係の部屋には所狭しと分析装置が並び、モーター音が響く。繊維のほか、ひき逃げ現場に残された車両の塗膜などを特定する。火災現場の油類の検査はかつて一つの資料の分析に2~3時間かかっていたが、今では30分まで高速化・高度化した。わずかな犯罪の痕跡も見逃さない。

 使用が増加傾向にあり、低年齢化が懸念される薬物も鑑定する。20年6月、県警は置賜地方の20代男から初めて大麻リキッドを押収した。大麻の葉の両面には「剛毛」という毛があり、特定のポイントになる。しかし、リキッドは幻覚成分を抽出して精製するため、剛毛を確認できない。難しい鑑定だったが、詳しい成分分析で大麻と判定、男の起訴につながった。

 主に薬物を担当する最年少の研究員荒木渉さん(27)=鮭川村出身=は山形大理学部で専攻した化学の知識を生かそうと、科捜研の門をたたいた。夜間の急な呼び出しにも「よしやったるぞ、という気持ちになる。全く苦ではない」と意欲十分だ。

 「扱うのは物だが、その物の奥に罪を犯した『人』、罪のない『人』がいる」。伊藤さんはかつての上司・皆川節さんの教えを胸に刻み、日々の業務に向き合う。資料を装置にかけて結果が出たら終わり、ではない。科学的見地から捜査するのが使命だ。「わたしたちはオペレーターではなく鑑定人」。伊藤さんの言葉に、荒木さんが大きくうなずいた。

◆県警科学捜査研究所(科捜研) 1975(昭和50)年に刑事部鑑識課内に誕生した科学捜査研究室が前身。98年に研究所となり、新築された県警本部の分庁舎に移転した。「法医」「化学」「工学」「文書」「心理」の5分野で、科学を応用した鑑定と科学捜査に関する研究を行っている。職員は所長・土屋敦夫警視、副所長・鈴木孝司警視と研究職13人。分野別の人数は公表していない。

記事・写真などの無断転載を禁じます
[PR]
おすすめニュース

県内ニュース最新一覧

[PR]