作家・近藤亜樹の世界(下) 幸せの色

2021/11/11 13:02
幸せな日常の光景を描いた「おひさまとおひるね」((c)Aki Kondo courtesy of ShugoArts)

 「人生楽しめ」。4年前に急逝した夫が、近藤亜樹さん(34)に残した最後の“言葉”。当時は生きるのが苦しく受け止められなかったが、今はその意味をかみしめ、息子と過ごしている。失意の底をはうような出来事だったが、震災のショックで失った色を取り戻してくれたのは、最愛の夫との温かく幸せな記憶、そして新しい命だった。

 2017年。結婚からわずか2週間、夫は旅先で突然の病に倒れた。電話で連絡を受けた近藤さんは泣き崩れ、偶然ベッドの下に落ちていた手紙を見つけた。そこには大きな文字で一言、「人生楽しめ」とだけ書かれていた。

 近藤さんは、ショックが大きすぎて記憶がところどころ抜け落ちてしまったという。夫の死から半年が過ぎたころ、記憶を思い出そうと、大きなおなかを抱えながらキャンバスに向かった。花や人の顔、風景や臨月の自分など、記憶のかけらを頼りに感じたまま描いた。気づけば、これまで避けてきた原色を使っていた。

 「つらいことが起きた時、悲しみより喜びに目を向けるのは難しいけど、喜びに目を向けられるようになると、モノクロだった世界が色を帯びてくる。夫の死は『点』で見ると悲劇だが、『線』で見ると、夫と出会えたから見えた世界や初めて知った感情があり、人生が豊かになった。息子にも出会えた。4年近くがたち、やっと『人生楽しめ』という言葉を受け入れられる」と語る。

 絵を描く際は何十枚ものキャンバスを並べる。その時に湧き出た感情をあますことなく表現するためだ。絵の具が乾くのを待つ間、別の絵に取りかかる。これを繰り返して一気に仕上げる。下絵は描かずパレットも使わない。絵の具の瓶に直接筆を入れ、どんどんモチーフを配置していく。どこに何を描くかも、その時思ったままに進めていく。力強く迷いのない筆致が、近藤さんの世界観を生み出す。

 縦181.8センチ、横454.6センチの大作「おひさまとおひるね」は日常を描いた作品だ。ぽかぽかとした太陽の光と草花に包まれ、人と動物たちが幸せそうに眠っている。「失敗しても全力で楽しんでいる子どもを見ると、こっちも楽しくなる。生きているだけで誰かを励まし、誰かの光になっている。自分の命は素晴らしいものだとみんなに思ってほしい。私は作品を創ることで心の復興をしている」と近藤さん。すべてを包み込む優しさが、絵にあふれている。

 「近藤亜樹―星、光る」は23日まで、山形市の山形美術館。入館料は一般1200円、高校・学生800円、小中学生400円。

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