古里の支えで強くなれた アーチェリー女子個人・中村選手

2021/7/31 10:54

 アーチェリー女子の中村美樹選手(28)=ハードオフ・鶴岡工高出=にとって五輪は中学時代からの憧れだった。愚直に夢を追い続けた一方、挫折や失意で道を見失いかけた時期があった。練習環境の整った都市部を離れての再起には勇気も必要だった。それでも古里に支えられて夢舞台できらめき、「地元の応援には感謝しかない」。30日の敗戦後、報道陣の取材に素直な思いがこみ上げた。

 五輪までの道のりは決して順風満帆ではなかった。ワールドカップでの団体準優勝や世界選手権出場など輝かしい実績を残してきたが、一時は指導者不在の状況が続き、孤独な日々に身も心も疲れ果てた。「精神的に落ち込んだ」。練習に身が入らず、ナショナルチームから漏れて大粒の涙を流したこともあった。

 地元の鶴岡市に拠点を移したのも五輪の夢を諦められないからこその決断だった。心も折れ、「気持ちの切り替えが必要だった」。所属先が運営する店舗で働きながら、高校生に交じって練習に打ち込んできた。雪国では冬場の練習が難しく、地方から勝負を懸けるにはハンディが大きすぎるとみられたが、本人は意に介さなかった。「頑張り次第でどうにでもなる。大変だとは思わない」

 地元企業は練習場として工場を使わせてくれた。距離が十分に取れなくても的を小さくするなど工夫して冬場を乗り切った。恩師の野崎剛さん(57)=鶴岡南高教諭=は常に前向きなアドバイスで背中を押してくれた。両親は優しく寄り添い続けてくれた。地域の応援がうれしかった。何よりも1人じゃないことが心強かった。「地域に支えてもらったからこそ、今の私がある」。感謝の気持ちが選手としての強さを育んだと信じてやまない。

 憧れの舞台でメダル獲得の夢はかなわなかった。「結果で恩返ししたかったので、申し訳ない気持ちでいっぱい」。期待に応えられなかった悔恨が胸を突く。それでも個人戦では強敵の韓国選手を破る大金星を挙げて存在感を示した。「あっという間だった。苦しいこともあったけど楽しめた」。初の五輪を総括する表情はすがすがしかった。

父・秀明さんら、母校から戦い見届け

中村選手を応援する父親の秀明さん(手前右から2人目)や後輩の生徒たち=鶴岡工高

 中村選手の母校・鶴岡工高では30日、鶴岡市内の高校アーチェリー部員と中村選手を指導する野崎さん、父親の秀明さん(65)ら約40人が集まり、戦いを見届けた。

 応援メッセージや日本国旗を持った生徒たちが、固唾(かたず)をのみながら矢の行方に一喜一憂した。今回が3回目の観戦という鶴岡工高2年野口健汰さん(17)は「同じ場所で練習もしていた先輩なので、誇らしい。今後の練習の糧にしたい」と刺激を受けた様子だった。

 市内の小中学生から寄せられたメッセージ入りのうちわを手に応援した秀明さんは「本人よりも緊張した」と話す。「苦労しながら練習を重ねてきた姿がプレー中、思い浮かんだ。鶴岡に帰ってきたら『お疲れさま。よく頑張ったね』と声を掛けてあげたい」と優しい表情で語った。

長年指導・野崎さん「よく頑張った」

試合後、中村選手と電話で話す野崎剛さん=鶴岡工高

 長年寄り添って指導してきた野崎さんは、中村選手のプレーを祈るように両手を握って観戦していた。試合後、「相手選手の力が予想以上だった」と悔しさをにじませつつも、五輪選手として精いっぱい戦った教え子をたたえた。

 個人3回戦での戦いぶりについて「堂々と自分のフォームで矢を放っていた。日本を代表する立派な選手になったんだと感じた」と話した。「鶴岡の多くの人にサポートしてもらってここまで成長できた」と感謝していた。

 試合が終わって約40分後、野崎さんの携帯電話に中村選手から電話がかかってきた。「お疲れさま、いい打ち方してた。本当によく頑張ったよ」と、目を赤くしてねぎらっていた。

さらなる進化、これから

 メダルが視野に入った団体は準々決勝で姿を消し、個人も3回戦で敗退。アーチェリー女子の中村選手にとっては悔しい結果だろう。

 特に個人は世界1強とも言われる韓国勢の一角を崩して勝ち上がっただけに、もっと上のステージで飛躍する姿を見たかった。それだけの実力は備わっていた。

 初の五輪舞台に緊張がうかがえた。的に当たる矢はばらけ気味で、団体、個人を通じて不安定さは拭えなかった。それでもはまった時の強さは見応えがあった。体現したのが個人2回戦。気まぐれな風を読み切り、ランキングラウンド2位の張◎喜(チャンミンヒ)選手(韓国)に先行。大きく外すことなく矢を中心部に集め、要所で10点を射抜く勝負強さでプレッシャーをかけた。高い集中力が光った一戦だった。

 練習環境も含め、雪国から五輪を目指すのは厳しい道のりだったに違いない。それだけに地元の応援を力にした活躍は称賛に値するものだ。また、地方を拠点にして夢をかなえたことは多くの競技者に飛躍に向けた一つの可能性を示したのではないだろうか。9月に米国で開かれる世界選手権の代表メンバーにも選ばれている。もっと強くなれる。悔しい経験と自信を胸に、さらに進化した姿を見せてほしい。

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