生きる素晴らしさ、絵にしたい 画家・近藤亜樹さん、山形に移住

2021/5/16 10:49
本県を拠点に創作活動をしている画家近藤亜樹さん。生きることの大切さを描いている((c)Isao Hashinoki)

 大胆な色使いと力強いタッチで注目を集める画家近藤亜樹さん(34)が活動拠点を本県に移し、創作に励んでいる。札幌市出身で、2012年に山形市の東北芸術工科大を卒業した。3年前に夫と死別し、子どもを産み育てる中、支えてくれた人々の存在や愛情に気付き、大学時代を過ごした地に移住。残酷であり、温かくもある「日常」をテーマに、生きていることの大切さを描いている。

 近藤さんは06年、芸工大美術科洋画コース入学を機に山形へ来た。大学院までの6年間、当時グラフィックデザイン学科教授だった中山ダイスケ学長らから指導を受けた。大学院2年時の12年、東日本大震災を題材にした作品「山の神様」が評価された。サンフランシスコの美術館に展示され、画家としての一歩を踏みだした。大学院を修了する頃に現代アートの「高橋コレクション」にも加えられ、山形美術館をはじめ全国で巡回展示された。

 小さい頃から当たり前のように絵を描き、将来は画家になれると思っていた。絵と向き合う上で転機になったのは東日本大震災だった。多くの命が奪われ、家が流され、想像が追い付かないような光景に押しつぶされそうになった。発生翌日の新聞に掲載された黒い海に赤い炎が揺らめく写真に衝撃を受けた。強い色が怖くなった。

 「こんな状況で絵を描いていていいのか、ボランティアに行った方がいいのではないか」。葛藤し、筆を握れなくなった時に背中を押してくれたのが中山学長だった。「苦しくても、描く意味が分からなくても、何でもいいから描き残しなさい。描くことをやめてはいけない」。この教えを胸に、揺れる様子を抽象的に表現したり、家やお地蔵さん、動物など自分の中から湧き出るものをひたすら描いたりした。紙がなければ封筒などもかき集め、泣きながら手掛けたドローイングは数百枚にもなった。

 この経験から生まれたのが「山の神様」だ。10メートルにもなる横長のキャンバスに木や洞窟、沼を描き、その間を人と獣が手を伸ばし絡む姿を表現。絶対的な自然の力を暗示している。主張が強い原色に恐怖心があったため、現在の鮮やかな色彩とは異なり、白を混ぜたグレーがかったトーンになっている。

 現在は花や母子、風景などの日常を表現している。3、4月には東京都内4カ所で個展を開いた。近藤さんの所属ギャラリー「シュウゴアーツ」(東京)の佐谷周吾さん(62)は「筆致に迷いがなく、透明感がある。画家が生き、感じ、考えていることが反映されている」と評価する。このほど初の作品集「ここにあるしあわせ」(T&M Projects)も出版した。

 近藤さんは「作品を見て、明日もまた頑張ろうと思ってもらえるような寄り添う存在でありたい。道端の名もない花のようにただ咲いているだけでいい、一生懸命生きているだけで素晴らしいということを描きたい」と話した。

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