「2代目井上ひさし」に憧れて 川西・協力隊に“熱烈ファン”井上恒さん着任

2021/4/9 09:48
自作の資料を手にする井上恒さん=川西町フレンドリープラザ

 2010年4月9日に他界した作家・劇作家井上ひさしさんの出身地川西町に、今月から新しい地域おこし協力隊員が着任した。名前は井上恒(ひさし)さん(60)。幼少期から井上作品のファンで、その豊富な知識と名前が同じであることからコアな愛好者の間では知られる存在だった。関連蔵書を収めた川西町フレンドリープラザの「遅筆堂文庫」で研究に当たり、井上ひさしさんの魅力を発信していく。

 恒さんは岩手県生まれで、「ひょっこりひょうたん島」の放送が始まった1964年は、島のモデルとされる大槌町「蓬●(ほうらい)島」の近くで暮らしていた。夢中になった番組のテロップに「井上ひさし」を見つけ「同じ名前の人がこんなに面白い番組を作っているんだ」と感動した。学生時代は井上作品に熱中した。「2代目『井上ひさし』として弟子にして下さい」と手紙をしたためたが、投函する勇気が足りず、机の中にそっとしまっておいた。

 大学卒業後は札幌市で就職し、読書から離れる時間が多かったが、40代後半で勤めていた会社が倒産した。何をしようかと考えていた時、井上ひさしさんの訃報に触れた。「そういえば、読んでない作品がたくさんあるな」。子どもの頃、夢中になった井上作品への熱い気持ちがこみ上げ、再就職はせずに、未読の小説や戯曲の鑑賞に没頭する道を選んだ。

 エッセーや対談の記事などにも手を伸ばした。国会図書館へ出向き、何の手掛かりもなしに古い文芸誌の目次を何百冊と確認し、井上ひさしさんが書いた文章をとにかく探し続けたこともある。「井上ひさしの文章を読むことは、ご飯を食べるくらい当たり前のことになった」

 備忘録として付け始めた記録は10年の歳月を経て「井上ひさし著作年譜」と題した立派な資料のレベルまで達し、5千を超える小説や戯曲、対談などの貴重なデータベースとなった。うわさは出版社の元にも届いた。井上ひさしさんが憲法について語った講演、エッセーをまとめた「井上ひさしの憲法指南」(岩波書店)では、編集協力として関わり、置賜農業高百周年記念講演(中村哲「本当のアフガニスタン」に収録)などをお薦めの講演として挙げた。

 「遅筆堂文庫」にある関連書籍は約22万冊に上り、手書きのメモなども多い。これまで何度も訪れたことがあり、「手付かずの資料が山ほどあり、全部読むのは任期の3年じゃ足りないかも」と、宝の山を目にしたように楽しそうだ。

 好きな作品は「吉里吉里人」「花石物語」「おれたちと大砲」など。「社会批評や戦争問題を取り上げた文もあるが、やっぱり子どもの頃に読んだ本当にばかばかしい話が好き。作品には笑いのエネルギーが詰まっている」とする。

 かつて願った“2代目”になりきり、若い世代に井上作品の魅力を伝えていく。

●…草カンムリに来の旧字体

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