昔、昔あったけど。
東根の最上川の岸辺で爺様ど婆様が暮らしておったけど。
元日の朝、「婆様、婆様、(※)ゆんべな良え夢見だや」
「どだな夢だけや」
「俺宝船さ乗って、船着ぎ場さ着いで、大金持づになた夢だ」
「『夢逆さ』て言って、悪い夢だ、爺様」と言っている所さ、隣の爺様入ってきて、
「何が夢の話しったな聞けだけ」
「俺えの爺様、元日がら大金持づなた夢みだど。夢逆さて悪い夢だんなえがや」
と、言うど、隣の爺様「大金持づになた夢、俺さ売れ」と言って、爺様さ銭渡して買うごどにしたけど。
夕方から空が荒れで、吹雪になったら、夢買った隣の爺様の家さ、船引ぎ人夫ぞろぞろ入ってきて、「俺だ、最上川の船引ぎだ。こごまで来たが荒れで船引ぎ(※)さんなえ。寒くて、腹へって、どうが今夜一晩泊めでけろ」
「ほうが、ほうが。泊まってえげ」て言って、爺様ど婆様、温かい飯炊いで食せ、暖かい炬燵の中さ寝せでけだけど。
爺様ど婆様、囲炉裏で、うとうとして気がついだ時、いづの間にが、船引ぎの姿が1人も見えなぐなったけど。
爺様、船着ぎ場さ行ってみだれば、船はつながっておったが、何日たっても取りにこないので、爺様のものになったけど。
船底には大判、小判も積まれであったので爺様は長者になったけど。ドンビン。