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工藤さん(鶴岡出身)の教え子、発達障害ある西川さん(東京)が学びを本に

2022年3月15日掲載
「死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由」
「死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由」

 大胆な教育改革を行ったことで知られる、東京都千代田区立麹町中の元校長・工藤勇一さん(62)=鶴岡市出身=の教え子で、発達障害がある西川幹之佑さん(19)=東京都=が「死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由-麹町中学校で工藤勇一先生から学んだこと」(時事通信社)を出版した。西川さんは発達障害で苦しむ子ども時代を過ごすが、工藤さんとの出会いにより自己肯定感を高め、自分らしい生き方を模索することができたという。西川さんの思い、工藤さんが考える発達障害児の教育の在り方について紹介する。

 -西川さんは自身の特性や苦悩なども包み隠さずに書いている。どんな思いを込めて本を出版したのか。

 「英検2級に3年近く合格できない要因を分析していた時、『得意なことは自分だけのものであるうちは価値がないが、自分以外の誰かに伝えることができたら価値を持つ』という工藤先生の教えを思い出した。発達障害の実体験や18年間で身に付けたことは似た境遇の人の役に立てるかもと思い出版した。発達障害児たちが私のように苦しまないように願っている」

 -工藤先生の教えの中で特に多くの人に伝えたいものは?

 「『最上位目標』を持つ大切さと『目的と手段を間違えるな』の二つ。私も以前はそうだったが、発達障害児は自分にあまり自信を持てない。最上位目標を設定して、そこに向かうための低いハードルを越えることは最も現実的な解決法だと思う。私の最上位目標は『人のためになりたい』だ」

 -同質性を求められ、死への衝動にもとらわれた小学生時代。今、振り返って思うことは?

 「当時は自分の思いをうまく伝えられずに先生との対立や隔たりを招いた。申し訳なかったと思う。どんな形でも伝えることはとても大切。発達障害の子にとっては特に重要だ。中学校ではプレゼンテーションスキルを学べたので、自分の主張を相手に伝える工夫ができるようになり自己肯定感も上がった」

 -麹町中での気持ちの変化について。

 「麹町中では、大抵の学校が言う『みんな仲良く』でなくていいし、空気を読むことや誰かと同じ考えであることが求められない。発達障害はそのままで『あり』だと割り切れるようになったことは大きい」

 -今後の目標は。

 「安全保障と教育に関心がある。具体的には決まっていないが将来は困っている人の役に立ちたい。自分の経験を生かし、全国のいじめられっ子に優しい空手の先生を派遣するプロジェクトや、英国の有名デパートで行われていた自閉症の人に配慮した日を設けるキャンペーン『サイレントアワー』などを展開したい」

 -発達障害で悩む子どもたちへのメッセージを。

 「自分の気持ちを分かってくれる人や自治体などの窓口に伝える努力を続けてほしい。どんなにつらくても自殺や犯罪行為で自分の気持ちを表現することは絶対しないで。追い込まれた人たちが自分の存在意義を否定せずに済むように、周囲の人も社会全般の問題として考えてもらえたらと思う」

【工藤さんメッセージ】特性ある子の学び方探して

 日本は幼児教育でも集団行動や思いやりを大切にするので、発達に特性のある子たちははじかれてしまう。こういう子たちを分けて「これに適応できるようにしよう」ともする。脳は心地良いものが続くと発達するが、心地悪いものが続くと発達しづらく、自己否定しやすくなってしまう。ヨーロッパの幼児教育は、誰もがストレスのない状態での教育環境作りから始まる。

 麹町中学校には西川君のような子がたくさんいる。私はそういう子どもたちが苦しむ既成の仕組みを取り去ることを心掛けた。大事なのは「この子たちはこのままでOK」という環境をどう作るかだが、日本はそういう子たちにソーシャルスキルを学ばせようとしている。心の教育もこの子たちを苦しめてしまう。

 米国では特性のある子たちの学び方を支援する。ディスレクシア(読み書き障害)なら、訓練すると聞く能力などほかのことが得意になる。米国の大企業のトップでディスレクシアの人が結構多いというのは、コミュニケーション能力が高いからでは。学習障害だと計算ができない子がいる。でも眼鏡をかけるように電卓で補えばいい。漢字を書けないならキーボードを使えばいい。スマートフォンがあれば読み上げソフトや音声入力を使える。その子が「大人になってどんなスタイルで生きるか」から逆算し、学び方を探してあげる場所に学校がなれるといい。

 悩んでいる子たちへ。自分をだめだなんて思わないで。国が変われば「全然OK」なんてこともいっぱいある。日本がものすごく遅れているだけ。発達に特性がある人たちは世の中でイノベーションを起こす人たち。もし苦しいなら学校に行かなくたっていい。世の中にはきちんと向き合ってくれる人がたくさんいる。ネットでも調べられる。そういう人と出会ってほしい。

西川幹之佑さん
西川幹之佑さん(提供写真)
西川幹之佑さん(提供写真)

 2002年、新潟県生まれ、東京で育つ。4代続けて東大卒という家系で、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)傾向、LD(学習障害)という発達障害がある。小学2年生まで特別支援学級で過ごし、先生の「赤ちゃん扱い」に苦しむ。小学3年生で通常学級に転籍するが、社会性や学習面などでトラブルを抱える。麹町中で当時の校長・工藤勇一さんと出会い、人生が一変。その後は英国・帝京ロンドン学園に留学、卒業し、現在は帝京大法学部政治学科1年生。

工藤勇一さん
工藤勇一さん(提供写真)
工藤勇一さん(提供写真)

 1960年、鶴岡市生まれ。東京理科大卒。本県の公立中教員、東京都の公立中教員、東京都教育委員会などを経て、2014年から麹町中学校長。「中間・期末テストの廃止」「クラス担任の廃止」などの改革を進めた。現在は横浜創英中・高校の校長。

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