わいわい子育て

アラカルト

いじめや引きこもり経験、お笑い芸人・なだぎ武さんが講演会

2021年7月20日掲載
「一つのきっかけに気付き、行動を起こせば何かにつながる」と呼び掛けるなだぎ武さん=米沢市
「一つのきっかけに気付き、行動を起こせば何かにつながる」と呼び掛けるなだぎ武さん=米沢市

 米沢市内で先日、吉本興業所属でお笑い芸人や俳優として活躍する、なだぎ武さんによる講演会が開かれた。なだぎさんはいじめや引きこもりの経験を持つが、ある一つのことをきっかけに、現在の自分に至ったという。同じ境遇にある子どもたちやその家族たちに向け、人との交わりや一歩を踏み出す勇気の大切さを伝えた。主催はNPO法人With優(同市)。要旨を紹介する。

 幼少期はすごく人見知りで、あまり人と接しないタイプだった。中学生になると太り、容姿をいじられた。いじめのきっかけはたわいもないことだが、それがエスカレートする。いじめはなくならないから、いじめが起きたときにどう対処するかが大事だと思う。

 いじめられているときは人にすがれず、誰にも相談できないまま孤立する。自分がしてほしかったことは、同じ目線に立って話をしてくれること。顔に傷があって明らかにいじめられていると分かっても「けがどうした?誰にやられたん?」と聞かれると何も言えなくなる。「なんか元気ないな。飯でも食いに行くか」みたいな一言に意外と勇気づけられる。それが積み重なると「心配してくれてるのかも」から「信頼できるのかも」に変わり、「この人だったら相談できるかも」と自分の言葉を発する勇気が出てくる。

 中学3年までいじめられた。高校でまた孤立することなどが不安で進学しないと決めた。親に打ち明けると僕の言葉を飲み込んでくれた。卒業後は親に気を遣ってメッキ工場で働いたが、うまく適応できず仕事を辞め、自宅に引きこもった。自分の部屋で好きなテレビや映画を見て、好きな本を読む生活は居心地が良かった。人を遠ざけ、親が食事を運んでくれても、自分の存在感を消したくて手を付けず、やせていった。

 引きこもって2年、17歳ぐらいの時、映画「男はつらいよ」が好きで、車寅次郎に引かれた。職に就かずにふらっと旅に出て、バナナを売って、すぐに友達や好きな人をつくって、ふられて、お金がなくなって実家のだんご屋に帰って来て、妹に小遣いをもらって、また旅に出る。「何ていうのんきなフリーターやねん」と思ったが、寅次郎は愛くるしさや能天気さなど自分にないものを全て持っていた。こんな自分でも寅次郎に近づけるかな。寅次郎みたいに一人旅に出ようと考えた。自分にとっては大冒険だが、今しなければならないことだと思った。

 旅の目的地は、大林宣彦監督の映画の舞台・広島県尾道市。当時はスマホなんてないので道が分からなければ人に聞くしかない。「すみません」の一言にも勇気が必要だった。この勇気で尾道にたどり着いた。今までに見たことがない景色が見えた。自分のエネルギーを初めて感じた瞬間だった。

うれしくなって広島名物のカキを食べたら、食あたりになった。公園のベンチで横になっていると、ある女性が心配して声を掛けてきた。女性は病院に付き添ってくれ、ベッドで3時間ほど寝てる間もそばにいてくれた。退院後は野宿するつもりだったが、女性は自分が女将をする旅館に泊まるように言った。人に甘えるのは苦手だったけど甘えてみた。人の優しさに甘える感覚を初めて知った。

 今まで人のために何かをしたいと思ったことはなかったが、お礼に旅館の雑用を手伝いたいと伝えた。女将は僕の申し出を受けてくれ、夕食は旅館のみんなとおしゃべりしながら食べた。小学2年の時から食事は自分の部屋で1人で取っていた僕には、家族だんらんの記憶はあまりなかった。「いじめられ、引きこもりになり、孤立し、一人旅に出て、今はこうしてみんなとご飯を食べている」と考えると笑いながら涙が出てきた。「人とご飯を食べるのってこんなに楽しいんやな」

 人と交わらないと自分自身のことも分からない。一人旅は自分の糧となった。「この気持ちや経験を絶対に何かにつなげなければ。このまま部屋にいてはだめだ」と考えが変わった。誰にも遅かれ早かれきっかけがある。そのきっかけに気付けるかどうかだ。

 ある日、気晴らしに大阪にある吉本の劇場に行くと、吉本の学校の生徒募集の案内を見つけた。お笑いをなりわいに生きていける人間ではないと分かっていたが、学校に通ったら何かが変わるかもと思った。勇気を出して願書を送った。

 面接では「芸人を目指してるの?」と聞かれても「はい、できれば」くらいしか答えられなかった。でも合格。入学式で吉本の社長は「芸人をゼロから育てるのが面白いんだ」と話し、自分の合格がふに落ちた。僕みたいな人が自分のフィールドをもらった時、内に秘めたものを爆発させるという確信を吉本の社員は持っていたのだろう。

 ある時、同期の千原ジュニアが「お笑いは一番難しい仕事かも。人によって笑いのつぼは全然違う。同じ会場の人を一斉に笑わせるのは不可能。その不可能に立ち向かうのが芸人だ」と言った。それを聞いてせっかくならもっと勉強し、お笑いの難しさを知ろうと思った。この時から本気でお笑いと向き合った。「映画が好き」「寅さんが好き」がこうして今につながっている。

 今、引きこもっていて、どうしたらいいか分からない人は自分の足元を見よう。好きなことが何か一つあれば、それが自分の道筋をつくる。何かのきっかけで、こう動いた方がいいのではと思ったら勇気を振り絞って。何につながるかは分からないけど、動けば何かにはつながる。何もしないと何にもつながらない。人にいじめられてどうしようと思っている時は、自分と同じ目線になってくれる人を信用してみて。この人は安心できるから話してみようと。

 一つのきっかけが自分の道筋をつくり、幸せのエネルギーになり、自分を後押ししてくれる。何でも勇気を持って第一歩を踏み出してほしい。

■子がいじめ被害?と悩むあなたへ―心配なときほど「大丈夫?」と聞かないで

講演後、なだぎさんは山形新聞の取材に応じ、子どもがいじめられているかもしれないと悩む子育て中の保護者たちにアドバイスを送った。

「心配であればあるほど『大丈夫?』と聞かないことが大事だと思う。子どもは「大丈夫」と言う。僕もそうだった。そんなときほど遠回りに時間をかけてゆっくりと、その子と同じ目線になってあげて。短期戦に持ち込もうとすると子どもは疲れて反発してしまうから」

[PR]