わいわい子育て

アラカルト

産後うつ(下) 母親たちの体験談

2020年11月3日掲載

 出産後、誰にでも起こり得る「産後うつ」。今回は実際に診断された母親たちの体験を紹介する。

【ケース1】産前からトラブル、完璧求め自信失う

 「みんなができていることなのに。私は母親の仕事を全うできない」-。村山地方に住む会社員杉山千尋さん(30代)=仮名=は産後、この思い込みに苦しんだ。

頭よぎる死

 千尋さんは結婚後、仕事が充実していたこともあり、妊娠は自然の流れに任せていた。そんな中で子どもを授かり、とてもうれしかった。ただ、重いつわりに切迫流産、切迫早産が重なり、妊娠中は心身共に苦しい状態が長期間続いた。そして出産。「これでつらいのは終わり」とゴールを迎えた気分だった。

 現実は違った。赤ちゃんは1時間おきに泣く上に授乳、おむつ交換、寝かしつけ。一体、いつ休憩できるのだろうか。入院中は涙が止まらず、助産師に寄り添ってもらった夜もあった。「あの時は既にうつだったんだと思う」と千尋さんは振り返る。

 退院後はしばらく実家に身を寄せ、母のサポートを受けた。母は育児も家事も完璧してきた人。「私にもできると思って産んだけど無理なのかな」。食事中や入浴中、不意に泣いてしまうことも。赤ちゃんと2人になるのが怖い。死が頭をよぎるようにもなった。ある日は無意識のうちに踏切まで歩いた。

 産後2カ月ごろ、家族に連れられて病院へ行くと、産後うつと診断を受けた。不眠を改善する漢方薬を処方された。

夫も悩んだ

 夫の健太さん(30代)=仮名=も悩んだ。「子どもが欲しいと言ったのは自分だから」。家族のため、夜遅く仕事から帰宅しても積極的に風呂に入れ、ミルクをあげ、おむつを替え、家事もした。日中の支援は引き続き千尋さんの母に頼んだ。できることは何でもした。

 千尋さんにも心境の変化があった。昔見たテレビ番組をふと思い出した。乳児の時に母親が家を出て以来、祖母に育てられたという芸人は、近所で若い女性を見るたび「お母さんかも」と母親を探していたという。自分を捨てた母親でもずっと慕い続けていたのだろう。「私もだめな母親だけど、それでもいい。この子が寂しい思いをしないように、せめてこの子のそばにいるのはやめないようにしよう」。千尋さんは完璧な母親像を捨てることができた。

 赤ちゃんが成長し笑うようになった頃、千尋さんに笑顔が戻った。投薬の必要もなくなった。「子どもはとてもかわいい」と目を細める。健太さんには感謝の気持ちでいっぱいだ。「彼が夫で良かった。彼じゃなかったら産後うつは抜け出せなかった」。子どもはもうすぐ2歳。今は3人で公園を散歩する時間が宝物だ。

【ケース2】第2子出産後発症、つらい子ども時代の記憶が拍車掛ける

 乳幼児2人の子育ては壮絶で孤独だ。村山地方に住む団体職員吉田麻帆さん(30代)=仮名=は、長男が2歳の時に第2子を出産し、産後うつになった。自身のつらい子ども時代の記憶もよみがえり、症状悪化に拍車を掛けた。

イヤイヤ期

 夫は協力的だが仕事が忙しく、「自分がやらなきゃ」と1人で頑張った。乳児の世話だけでも大変なのに、長男はイヤイヤ期(何をするにも「イヤ」と、言うことを聞かなくなる時期)に赤ちゃん返り。朝起きて寝かしつけるまで子どもを怒ってばかりで、自己嫌悪する日が続いた。ある時、長男が泣きやまなくなった。心配になって病院へ。医師に「上の子との時間をつくってあげないと」と言われ、吉田さんは自分を責めた。

 子どもへの接し方が分からなくなってしまった。不眠になり体もしんどい。育児書に頼るが、うまくいかない。夫に「本の通りにできてないんだけど、どうしたらいい?」と必死で尋ねた。夫は育児書を捨て、診察を受けさせた。産後うつと聞き、吉田さんは「自分がだめなわけじゃなかったんだ」と安心した。

否定され続け

 「お前は何をやってもだめだ」。吉田さんは両親に否定され続けて育ったという。自己肯定感が低く、それが育児をさらに困難にさせた。愛するわが子に前向きな言葉を掛けたくても、自分自身に経験がなく、自然に言葉が出てこない。

 処方された睡眠導入剤で眠れるようになり、症状は落ち着いた。現在は仕事と育児に奮闘する吉田さん。「あの当時は誰にもつらいと言えなかったけど、誰かに共感してもらえたらもっと違ったのかな」と笑ってつぶやいた。

産後の母親たちに寄り添う活動をしている鈴木千恵さん=山形市
産後の母親たちに寄り添う活動をしている鈴木千恵さん=山形市
【乳幼児子育てサポート協会理事・鈴木千恵さん(大江)】弱音吐いて助け求めて―「子を大事に思うなら、自分を優先して」

 産後うつから家族を守ろうと取り組む全国組織「乳幼児子育てサポート協会」理事の鈴木千恵さん(44)=大江町=も、産後うつのような症状の経験者だ。1人で頑張る母親たちに寄り添いたいと、山形市内で定期的にベビーマッサージ教室を開いている。多くの母親たちの声も聞いてきた。

「子育てはママが1人で責任を感じ、真面目にしてしまう。でも、『1人じゃないんだよ』と伝えたい」と鈴木さん。手を差し伸べてくれるのは家族だけでなく、鈴木さんのような第三者や公的支援も増えているという。「出産したからといって急に母親になれるわけでない。子どもと一緒に年数を重ねて母親になっていく。弱音を吐いて、気軽に助けを求めてもいいんだよ」と呼び掛ける。

 鈴木さんは、男女が共に妊娠や出産に関して学ぶ機会が少ないことも問題視する。「知識がないパパが戸惑うのは仕方ないし、ママ自身も産後にこんなにイライラし、泣きたくなるとは予想していない。理想と現実のギャップにショックを受ける。産後の生活について前もって知っているだけでも違うのでは」と話す。「子どもを大事に思うなら、自分を優先して大事にしようね」

[PR]