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産後うつ(上) 重症化防ぐには 県立中央病院産婦人科長・阿部医師に聞く

2020年10月20日掲載

 出産後の母親が精神的に不安定になる「産後うつ」。重症化すると自殺や虐待を招くおそれがある。これを防ぐ方法や、産後うつ経験者の体験談などを2回にわたって紹介する。

県立中央病院で行っているエジンバラ産後うつ病質問票
県立中央病院で行っているエジンバラ産後うつ病質問票

 重症化を防ぐには不調の兆しを早期に発見することが求められる。多くの人が受診する産後1カ月健診では間に合わないこともあるという。県立中央病院(山形市)産婦人科長の阿部祐也医師は産後2週間健診の重要性を指摘する。阿部医師にその理由を聞いた。

 -なぜ、産後2週間が重要なのか。

 「大きな目的はお母さんの自殺防止と赤ちゃんが元気に育っているかの確認。日本では妊娠・分娩(ぶんべん)・産後の病気で亡くなる人よりも自殺で亡くなる人の方が多いことが、最近明らかになった。自殺の時期は産褥(さんじょく)期では産後1カ月から始まり、4カ月にピークを迎える。自殺者の精神疾患を調べたところうつ病が一番多く、初産では産後うつの疑いが最も多いのは産後2週間であることが分かった。産後1カ月健診では間に合わないので、産後2週間検診を行い、早期にうつ病を見つけてあげなければならない。国は2017年度から1回5千円で2回分の補助を行う制度をつくった。だが、県内のほとんどの市町村では補助事業を行っていないため、有料で受診しなければならない。また、全ての病院で産後2週間健診を行っているわけではないので、早期発見が十分になされていない」

 -どのくらいの人が産後うつになるのか。

 「10~30%の人がかかると言われている。ほとんどの人は軽く済み、重症化するのは1、2割。発症の危険因子としてははうつ病や統合失調症の既往歴、望まない妊娠、夫の支援不足、親との関係不良などがある。抑うつ状態は妊娠中から始まっていることも多く、イギリスでは妊娠の合併症はうつ病が最も多く、高血圧や早産より多いと報告されている」

 -どうしたら助けることができるのか。

 「産後うつの人は一人で悩んでいて誰にも話さないことが多い。産後うつや何かおかしいと自覚があった人のうち、誰にも打ち明けない人は3分の2もいるとの報告がある。全ての人が産後2週間健診を受け、こちらから話を聞いてあげなければ産後うつの人を見つけることはできない。スクリーニングにはエジンバラ産後うつ病質問票が使われている。産後うつの可能性があれば話をよく聞き、必要があれば心療内科や精神科にも支援をあおぐ」

 -産後うつは赤ちゃんにも影響がある?

 「うつ病になると、授乳も含めて赤ちゃんのお世話が十分にできなくなり、1カ月以内に赤ちゃんが亡くなってしまうケースもある。産後1カ月健診を待たずに赤ちゃんの状態を確認する必要がある」

 -家庭でできるケアは?

 「人生の中でうつになる人は3、4人に1人もいて、珍しい病気ではない。分娩(ぶんべん)後はホルモンの変動などの要因でうつ病になりやすくなる。周囲からのいろいろなストレスがなければうつ病になっても重症化しないことが多く、お父さんや家族みんなが妊娠中から家事の手助けをしたり、子育てに参加したりすることが大事。うつ病かなと思われる症状があれば、早めに医療機関の受診を勧めることが重要だ」

メモ

【ズーム】エジンバラ産後うつ病質問票 産後うつ病のリスク度の判定のためにイギリス・エジンバラで生まれた。「物事が悪くいったとき、自分を不必要に責めた」「はっきりした理由もないのに不安になったり、心配した」など10の質問があり、4択の中から自分の気持ちに最も近い答えを選ぶ。各項目に0~3点が配点され、9点以上の場合は産後うつ病の疑いがあると判断する。

【県立中央病院の取り組み】「1カ月」までの間をサポート

 県立中央病院では産後2週間健診を実施しており、同病院で出産した母親はほぼ全員が受診している。現在は新型コロナウイルスの感染予防として、希望者には来院でなく電話による対応もしている。

 同病院でもエジンバラ産後うつ病自己質問を行う。単に点数だけでなく、本人から話を聞き、様子も見る。心配があれば後日、電話をかけたりと1カ月健診までの間のサポートもする。吉田宏井(ひろい)看護師長は「知識がある人や甘えられない人ほど、こんなはずじゃないのにと悩むことが多い」と話す。産後約1週間で自宅に帰り、1カ月健診までの間、母親たちは多くの不安を抱えている。「健診で話をしたり、赤ちゃんが順調に育っていると分かったりすることだけでもお母さんたちは安心して帰っているようだ」という。

金山町、2回の健診費用を助成

 金山町は本年度、産後2週間と1カ月健診の費用の全額助成を始めた。支援が必要なケースがあれば医療機関が町に連絡する仕組みになっている。担当者は「産後うつやお母さんの不安を早期に見つけることができれば」としている。

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