21世紀山形県民会議「DX山形-経済再生、コロナの先へ」|山形新聞

21世紀山形県民会議

テーマDX山形-経済再生、コロナの先へ

必要なリスキリング

 -ここまでの論点を踏まえ、厳しい時代を生き抜くために必要なリスキリングについて伺いたい。

吉村 県政運営で一貫して大切にしてきたことが「人づくり」。県内企業や市町村のリスキリングの動きをリードするため、県としても職員向けセミナーを開催している。政府施策と連携し、企業がリスキリングを通してデジタル技術などを活用したイノベーションを創出し、収益が従業員の賃金向上につながる好循環を実現するため、経営者と共に取り組む。必要とされるリスキリングは多種多様で、産学官が知恵と強みを持ち寄り、企業や県民に寄り添った機会を確保することが重要。人づくりや人への投資を県全体で進め、本県の底力を押し上げることで、産業構造の転換やイノベーションの創出を加速し、経済再生と豊かな生活を実現していく。

佐藤 DXに関する職員研修や企業のスキルアップ支援などを行ってきた中、大事なのは市民が便利さを実感できるような取り組みを進めること。山形市では電動アシスト自転車を貸し出すコミュニティサイクル事業を開始した。スマートフォンで手続きする仕組みだが、やってみると簡単だという声もある。除雪車の位置情報はかなり市民の間で定着した。幅広い分野で取り組みを進めているが、費用的な問題もある。また、児童生徒のICT教育を実施しており、一人一人の能力や関心に合った教育を提供することで、全体的な人材育成につなげていきたい。市として支援する「やまがたAI部」など民間の力も活用し、ICT教育を推進する。

矢野 消費税の軽減税率やインボイス(適格請求書)の制度導入など、変化について行かないと将来的に商売ができないのが実情だ。特に、インボイス制度は家族経営の事業所などが対応できるのか、メリットがあるのか、という点が問題となっている。商工会議所としては、規模の小さい事業所にもスキルを磨いてもらうことで、事業継続を支えていきたい。リスキリングと合わせ、社会人が仕事と学びを繰り返すリカレント教育も重要で、同時に進めていかなければならない。会員向けに、企業規模に適した研修やセミナーを開催し、啓発に努めたいと考えている。

田牧 これまで必要とされていたスキルはAI、ロボットに加速的に置き換わっている。新技術はあらゆる業界に恩恵と痛みをもたらすが、一歩を踏み出すことで恩恵を受ける側になる。過去に、今ほどの速さで技術が進化する時代はない。その中でリスキリングという言葉が生まれ、変化のスピードに対応する学びが求められている。学びは楽しむことがスタートで、その結果、成長や喜びを得られ、その先のビジネスチャンスにもつながる。技術は日常的に使えるため、中小企業はまず導入してほしい。社員が遊びながら学ぶと、自然とリスキリングが広がる。それがDX人材を確保することになり、企業の生産性向上、地方経済の再生につながる。

 社内のDXを進める中、社員に言い続けているのは「もっと楽に仕事をし、もっと早く終わらせよう」ということ。日本人の悪いところかもしれないが、大変な仕事を我慢強くやり続けてしまう面がある。社内全体でアナログ的な考え方からデジタル的な考え方に変え、社員が「デジタル脳」になることが大切だ。そうすると、既存の仕事のやり方について社員から「このままでいいのか」という意見が出てくるようになった。その意見をシステムエンジニアが形にしている。DXによる新たな仕組みを作り、社員が便利さを体験することで、さらに理解が深まる。経営者も含めて意識を変え、取り組みを進めることで成功に導かれると思う。

佐野 新たなサービスを構築しても、使ってもらえなければ意味がない。市民と市職員の意識改革、リスキリングを同時に進めながら、市民と行政の関わり方を変えるというのが「行かなくても済む市役所」の狙いだ。現在、DX人材の育成に取り組んでいる。職員間の温度差が課題だが、若手だけではなく、ベテランを取り込むことが重要だ。ベテランが新たな技術を使いこなせれば、経験に裏打ちされたアイデアが生まれるとの期待がある。研修や勉強会を通じてDXの活用を「自分ごと」と捉え、イメージしやすいよう時間をかけて育てている。職員の意識改革とDXのサイクルを連動させることは、持続可能な行政を実現するために欠かせない戦略だ。

-これまでの議論を受け、国会議員の皆さんの考えは。

遠藤 DXの時代を迎えてリスキリングが必要になったわけだが、実践した人をきちんと評価する仕組みをつくるべきだ。また、会社に在籍したまま技術を学ぶイメージがあるが、会社の中ではなく、介護や育児などで家庭にいても学ぶことができるのではないだろうか。製造分野や観光業などで本県出身や本県とゆかりがあり、全国的に活躍するリーダーは大勢いる。古里研修制度のようなやり方ができないかと考えている。本県に招くのはなかなか大変だが、各地をオンラインでつなげれば県民のリスキリングに結び付く。県に主催してもらえれば面白いと思う。山形新聞とも連携して、考えてみてほしい。

鈴木 日本の雇用状況を考えると、リスキリングは必要だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、海外の労働市場では雇用が失われたものの、その人材は成長産業に移動した。一方で、日本は雇用調整助成金を活用して多くの失業を防いだが、新分野への人の移動は進まなかった。だから現在、経済回復のスピードが意外と緩やかだとの見方もある。次のステップに移り、新しい産業に挑戦するスキルを身に付けなくてはならない。そして、今の日本に必要なのは、ジェネレーション・トランスフォーメーション(GX)だと思う。つまり世代交代だ。次世代の意見や感覚を取り入れながら、日本をつくっていきたい。

加藤 リスキリングについては、概念の理解が人それぞれだ。現時点では、浸透させることが重要だろう。経営者が二の足を踏んでしまう点が課題に挙げられる。コストや時間をかけて人を育てても定着しなかったり、待遇の良い職場に転職したりすることが理由になっている。推進する上では、コストをかけて人を育てる企業がしっかりとインセンティブを得られるような仕組みづくりのほか、労働市場の改革と、その中での法制度の改革を国が検討しなければならないと感じている。そして、リスキリングに取り組んだ個人、推進した部門のリーダー、実践した企業などについて、長期的なスパンできちんと評価をしていくことが大切だ。

舟山 時代の変化で、必要とされる仕事が変わる。今はデジタル人材の育成、活用が必要とされ、リスキリングの重要性が叫ばれる背景にある。DXが進めば仕事の効率が上がり、雇用の流動化になる。それが労働者の解雇や使い捨てにつながらないよう制度的に後押しする。リスキリングによる生産性向上は大切で、労働の質の向上、働き方改革も求められる。日本の労働者は、自分のスキルアップに割く時間がない。会社は積極的に、社員のリスキリングに取り組んでほしい。睡眠時間と労働生産性、GDP(国内総生産)は相関性にある。睡眠時間の確保、生産性とGDPの向上のためには、勤務間インターバル制度の普及が欠かせない。

芳賀 デジタル庁に限らず、全ての省庁でデジタル分野の理系人材や、スキルを持つ職員を重用して部長や局長、事務次官に取り立てていくような人事政策の変革が必要だ。厚生労働省を中心に、雇用保険を財源に教育訓練の給付金を出すリスキリングの補助制度もあるが、現場ではあまり活用されていない。厚労省が認知度アップに努めるべきだ。企業の中でDXによるリスキリングを担当者任せにするのでは、結果的に転職を後押しするだけだ。かつてグローバル化のために英会話スクールが繁盛したが、リスキリングが英会話スクールの流行と同じような一過性の取り組みで終わってはいけない。生涯学ぼうとする意欲を、どう引き出すかが大事だ。

 -これまでの意見を集約していただきたい。

片桐 DXは成長分野だが、将来的な人材不足が懸念される。人材は地方より都市に、ユーザー企業よりベンダー企業に、若者より年配者に偏在し、再配置が課題だ。山形県はポテンシャルの高い企業が多く、国の政策支援が不可欠だ。

 今の学生は将来の転職も当たり前との風潮がある。企業はデジタル人材の社内定着が大事になる。組織の事情や土壌を理解している人の方が、経営変革をしやすい。DXのリスキリング人材を優遇しなければ「やっても仕方がない」「どうせできない」などとネガティブな発想が生まれてしまう。そこを解決すれば、リスキリングは会社のため、従業員のためになる。県内で人材確保する派遣組織の構築など工夫が必要だ。

後藤 リスキリングは個人の自主的な取り組みに限らず、産業政策や企業の生き残りをかけた事業戦略にもつながっている。本県での具体的なリスキリングの分野として、仮想現実(VR)を挙げたい。メタバースの世界で本県を売り込む仕組みをつくってほしい。

 リスキリングの成功には▽産学連携による推進組織の設立▽行政、企業、業界団体による三者契約▽有償の見習い制度の実施▽リスキリング後の昇給、昇格▽政治家や経営者による実践-の五つのポイントがある。これらを踏まえて提案したいことは二つだ。一つは「山形県のデータ化」。まずはペーパーレス化から始めてほしい。もう一つは本県のリスキリングを応援する、官民一体となった委員会の創設だ。本県が全国のロールモデルになることを期待している。

閉会のあいさつ

山形放送社長 板垣正義

山形放送社長 板垣正義

 DXは構想段階から実践段階へと移り、具体的なアクションで成功体験を積み上げていくことが重要との提言を受けた。一方で、中小企業に関しては、入り口の支援が必要との認識を共有した。リスキリングは企業や産業の成長に欠かせず、行政の支援が不可欠との指摘もあった。改めて、DXやリスキリングの重要性を確認することができた。皆さんには引き続きの尽力をお願いしたい。


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