21世紀山形県民会議「DX山形-経済再生、コロナの先へ」|山形新聞

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テーマDX山形-経済再生、コロナの先へ

DX通じた経済再生策は

 -最新のデジタル技術を活用して変革を目指すDXの重要性が社会に浸透している。DX実践を通じた経済再生策を伺いたい。

吉村 県は県民の「幸せ」を中心に据えたデジタル化を目指し、「Yamagata幸せデジタル化構想」を策定、施策を展開している。経済分野ではものづくり産業、観光業、農林水産業を中心に、デジタル技術を活用した産業の高付加価値化に取り組んでいる。DXを経済再生の起爆剤とするには、効率化・省力化のためのデジタル技術の導入を推進しつつ、一歩進めて既存ビジネスの付加価値向上や革新的なビジネス・サービスの創出を目指していくことが不可欠だ。経営者の意識改革を促しながら、デジタル技術を駆使して県内産業をけん引していくリーディングカンパニーを生み出すなど、県内産業の変革に向けた取り組みを進めていく。

佐藤 DXを使って既存のシステムを維持・発展させる部分と、新たな技術の導入によって全く変える部分との二つの方向がある。バランスを取りながら、やっていかなくてはならない。例えば、山形市の取り組みに(デジタル技術で多様な交通サービスを提供する)「MaaS(マース)」の導入があり、今のシステムをデジタルの力でより便利にし、経済の活性化を図るのが狙いだ。大事なのは、企業も役所も市民も、仕組みが導入されたときに活用できるかということ。(市のプレミアム付き電子商品券)ベニpayは70代の利用も徐々に増えている、との例がある。企業や事業者のニーズも把握しながら、取り組みに関する背中を押し、市全体のDXを進める。

矢野 新型コロナウイルスの影響で中小企業や小規模事業者も商談、会議の選択肢がオンラインに限られる状況になり、デジタル化が普及した面がある。3密を回避することで、一気にキャッシュレス化も加速した。企業の規模は関係なく、アイデア次第で日本はおろか、世界を相手にビジネスが展開できる状況・環境になってきた。実際、県内でもオンライン商談のみで輸出を始めた中小企業がある。一方で、地元企業に目を転じると、DXの推進は道半ばと感じている。商工会議所としては、ビジネスの幅を広げてもらうようセミナーや個別指導を通じて伴走型支援を行い、中小企業、小規模事業者のデジタル化の支援をしていきたいと考えている。

田牧 地方の経済再生の鍵はテクノロジー活用とシェアだ。企業の人材確保と生産性向上は課題だが、既存の工夫や少しの改善では解決できず、RPA(業務の自動化)やAI(人工知能)の活用で対応できる。RPAは人のパソコン操作を代替する。圧倒的な処理速度と自動化により生産性が向上し、人は付加価値の高い業務にシフトできる。低価格で利用でき、最新技術はすぐ隣にあるとの認識を持つことが重要だ。シェアはリスキリングにもつながる。社内に技術を活用できる人材がどれだけいるかが企業の強さのベースになり、DX人材の確保が企業の成長の要。経営資源を他社と相互にシェアすることが、人材確保や価値のあるサービスの展開につながる。

 2000年からインターネットでタイヤ販売を始めた。タイヤ業界は10月から12月が繁忙期で、酒田市の京田西工業団地に本社と物流倉庫を移転した16年冬、受注が前年の1.5倍となり、完全に処理能力を超えた。夕方の出荷に間に合わせるため、社員総出で発送伝票を目視確認で貼っていた。劇的に変えるため、システムエンジニアを招き入れ、商品個別にあるコードを活用して省力化の仕組みを確立し、翌年から実践した。時代が変わっても、売り手と買い手が人であることは変わらない。DXは目的を達成するための手段。効率化や生産性向上で人にしかできない仕事に時間を費やし、サービスを向上させれば、経済再生にもつながるはずだ。

佐野 生産年齢人口が減少する一方で団塊ジュニア世代の高齢化が進む「2040年問題」を背景に、南陽市は「行かなくても済む市役所」を掲げ、既存事務の省力化を図っている。コロナワクチンの接種予約、AIを活用した問い合わせへの対応、災害時に避難所の混雑状況を知らせるアプリ開発などは、職員の労働時間短縮につながった。これからの自治体は、地域資源と企業のリソースを活用して一緒に事業をつくることが求められる。社会課題の解決に向けて行政と企業が一緒に取り組み、市民に還元することは市民の幸せにもなる。行政の新サービス開始は民間事業者の事業機会を増やすことになり、インフラ投資によって経済も活性化される。

 -アドバイザーの意見をお聞きしたい。

片桐 DXになじみが薄い県民は、多いのではないか。簡単に言えば、活用することで無駄をなくし、付加価値を高めることで組織や地域、最終的に社会全体を変えるということだ。行政で多様な構想が作られているが、既に構想から実践や実施の段階に入った。山形県は全国でも先進的な位置付けだと認識している。具体的なアクションが今後出てくる中、国はもちろん、各自治体のリーダーシップが必要になる。現場の地域住民が知恵を出し合い、いかに成功体験を積み重ねるかが課題となる。また、DXは大きな可能性を秘めているが、単に手段として必要だ、ということではない。「やらされている」という感覚ではなく、楽しんでいくべきだ。

後藤 経済再生に向けた対策を考えてみると、やはりグローバルな視点からデジタルを駆使したインバウンド(訪日客)戦略にあると思う。インバウンド・マーケティングの世界では、外国人観光客が来日する前に勝負が決まっているのが通説だ。海外にいる時から日本で何がしたいかを既に決めているからだ。体験型サービスなどの料金をアプリで支払ってから来日する人はたくさんいる。山形県には世界に誇れる資源がたくさんある。例えば米沢牛。大変素晴らしいが、神戸牛と比べ、海外ではなかなか知られていない。良いものが多くあるのに宣伝しきれていない部分があるので、デジタルとグローバルの視点でもう一度、戦略を考えてはどうだろうか。

 -これまでの話を踏まえ、国会議員の意見をお聞きしたい。

遠藤 今の日本にとって最大の課題は人口減少だ。出生数は減少の一途をたどっており、国力を維持するには子どもの能力を適切に引き出す必要がある。現在、ICT(情報通信技術)教育に関する議員連盟の会長を務めており、全国の小中学校にタブレット端末を配布した。これまではみんな同じ方向性、スピードで教育してきたが、ICTの活用で一人一人の能力を把握しやすくなり、最適化できるようになる。県内企業からデジタル甲子園の開催について相談を受けており、文部科学省と話をしている。「甲子園」と付いているが、本県で開催してもいいわけで、AI教育の推進は県や市の取り組みとして面白いと思う。ぜひ検討してもらいたい。

鈴木 DXの推進もそうだが、地域が抱える一番の課題は、中小企業も大企業も人が集まらなかったり、そもそも人口が少なかったりする中、どのように経済を維持するかということだ。人の作業のテクノロジー化をはじめ、オンラインを通じたシェアが重要だ。そして何より、行政が真っ先に変わらないといけない。コロナの給付金では支給を各自治体に任せたが、国が一括で実施できた方がいい。国民がデジタルの恩恵を感じられるような国の仕組み、国と自治体の関係づくりがポイントになる。補助金などは、気付いた人しかエントリーできない“申請主義”なのが現状。これでは駄目で、支援が必要なところに手が届く行政でなければならない。

加藤 デジタル化とDXは喫緊の課題であるとともに、大きなチャンスだ。地方は特に、少子高齢化や人口減少に直面しており、生産性の向上が不可欠。地方には現場を持つという強みがあり、ゲームチェンジャーになり得る。観光、農業、建設、土木などの分野に好機が眠っていると思う。DXをサポートするサービスをうまく活用していくことも重要だ。経営者には、DXは強い味方だと伝えたい。時代の変化が激しくなる中、既存のビジネスの革新などを容易にするのがデジタル化なのだろう。大きな課題の一つは、人材の不足と偏在。グローバルな人材の取り合いになっている中で、いかにデジタル人材を獲得し、育てていくかが本当に重要になる。

舟山 DXを進めれば便利になると発信することが大事だ。県内の中小企業が一足飛びにDXに取り組むよりも、まずは入り口となるIT化の推進が欠かせない。県内企業の2割はパソコンを使っていないという。本県は唯一無二の技術を持つ中小企業が多いが、対応しないと今後、取引の電子化など社会のデジタル化の進展で仕事がなくなる可能性がある。本県のものづくり企業を守るため、国、地方、商工団体がどう支援するかが大切になる。県や支援機関、大学で組織する県IoT推進ラボがあり、企業を伴走支援している。困った時に活用してほしい。成功事例を幅広く共有することで、挑戦する企業が出てくる。中小企業の一歩を後押ししたい。

芳賀 デジタル化で便利になり、経済成長につながるのは大歓迎だが、特に医療分野ではトラブルなどでかえって不便になることや、プライバシーの侵害になるようなことを防がなければならない。サイバー攻撃の懸念もある。先日、大阪急性期・総合医療センター(大阪市)が攻撃を受けた。政府はマイナンバーカードでのオンライン資格確認導入を来年3月末までに原則義務化するとしているが、先行事例でエラーや不具合も頻発している。医療分野のDXは、サイバー攻撃の被害やトラブルの防止に向けた対策が必要だ。厚生労働省内に専門知識を有する人材が少ないという課題はあるが、厚労省が隅々まで目を配り、責任を持って進めるべきだ。

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