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挑む、山形創生

第10部人を呼び込む(5) インバウンドとおもてなし

2016/12/11 11:05
人気ゲームにちなんだイベントを開催するなど、積極的に観光誘客を展開する小野川温泉。一方でインバウンドの対応では戸惑いの声も聞かれる=米沢市小野川町

 訪日外国人旅行者は2016年1~10月の統計で、初めて年間2千万人を超えた。拡大を続けるインバウンド(海外からの旅行)だが、大都市圏に集中し、東北は「一人負け」ともいわれる。「温泉王国」山形の主要観光地の一つとなる温泉街は、インバウンドにどう対応しているのか。おもてなしへの戸惑い、交通の不便さ…。さまざまな課題が浮かび上がる。

■地域を挙げて

 「何から手を付ければいいやら」。米沢市の奥座敷・小野川温泉街の旅館や商店、飲食店の若手経営者でつくる小野川温泉観光知実行委員会の関谷寛明委員長は天を仰いでつぶやいた。案内板やパンフレット、インターネットサイトの外国語表記、接客面での言葉の壁、ベジタリアン(菜食主義者)やイスラム教の戒律に従った「ハラル」に配慮したもてなしなど「クリアしなければならない課題が多過ぎる」。

Wi―Fiが普及している山形市蔵王温泉。接続の利便性を高めるアプリの開発も進んでいる

 同温泉は開湯1182年の歴史あるたたずまいを残す傍ら、人気ゲームにあやかった新規誘客イベントを企画するなど、地域を挙げた観光振興に力を入れる。だが、インバウンドにおいて温泉街関係者から聞こえてくるのは、及び腰にならざるを得ない現状への戸惑いだった。

 鈴の宿・登府屋(とうふや)旅館の遠藤直人社長はオーストラリアに留学の経験があり「英語への不安はない」。だが、「日本人よりも外国人にターゲットを絞り過ぎるとリスクが伴う」との思いもよぎる。以前に外国人客が1人当たりの宿泊代を1室当たりと勘違いし、軽いもめ事があったという。「心身を癒やしに来るのにストレスを与えてしまっては元も子もない」と漏らす。

■スマホが仲介

 一方、世界に名だたる「樹氷」を擁し、インバウンドの呼び込み役となっている山形市蔵王温泉。東日本大震災の影響で遠のいた客足は徐々に回復し、同温泉観光協会によると「外国人旅行者だけを見れば以前の水準以上だ」という。

 台湾や中国、欧米だけでなく、東南アジアからの来訪も増え、温泉街のパンフレットを多言語化するなど対応している。県の施策で今年は温泉街に公衆無線LAN「Wi―Fi(ワイファイ)」が普及。スマートフォンを快適に利用できる環境は外国人旅行者だけでなく、受け入れ側にもメリットをもたらしている。

 「店舗と旅行者の会話をスマホが仲介してくれる」と同協会の大沼豊主任は説明する。商品の画像を見せたり、翻訳機能を使ったりして店員とやりとりしているという。土産物店の男性経営者(54)は「買い物をするという行為自体は単純。言葉が通じなくても問題ない」と胸を張る。

 懸念は飲食店のお通し、貸し出したスキー用具の返却方法など、文化や作法の違いによるトラブル。大勢の旅行者で混雑することがあれば「旅行グループに通訳を付ける必要がある」との声も聞かれる。

 課題はそれだけではない。「何より、足がない」と大沼主任。公共交通の不便さを指摘する。二次交通の不足が旅行者の選択肢も、観光地が選ばれる機会も狭めている。国際線が就航する仙台空港とのアクセスをはじめ、県内を周遊する際の移動も不便だ。例えば銀山温泉に行く場合、蔵王を朝9時に出て夕方6時に戻ると、銀山に2時間滞在する以外は移動に費やす。

 パッケージ旅行なら専用のバスが走る。しかし、インバウンドも国内旅行同様に個人旅行客の獲得が重要になっている。レンタカーも選択肢だが、雪道などの運転には危険も伴う。車社会ゆえの交通環境は、自家用車を使わない旅行者にとってデメリットが目立つ。

 海外において本県の知名度が決して高いとはいえない中、より気軽に周遊できる地域に人が流れてしまうのではないかと同協会は懸念する。「旅行者にとっての快適さは、県民の快適さでもあるはずだ」と大沼主任は感じている。

(「挑む 山形創生」取材班)

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