挑む、山形創生

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挑む、山形創生

第5部大学生の力(4) 移り住んで思うこと(下)

2016/6/4 10:57
空き店舗が目立ち、中心市街地の空洞化が懸念される山形市内。学生たちの目には、決して魅力的とは映っていないのが現実だ=同市七日町1丁目

 東北で唯一、県庁所在地が隣り合っている山形県と宮城県。両県の間は高速バスが頻繁に往来しているため、仙台市から本県の大学に通う学生は少なくない。東北芸術工科大(山形市)企画構想学科3年の藤井悠貴さん(20)=仙台市太白区=もその一人。「1人暮らしするよりも、バスで通学する方が安いんですよ」と率直に語る。

 大学の講義は魅力的だ。温泉街を盛り上げる取り組みの一環で、オリジナルの手拭いを企画、開発、販売した経験は、他大学に通う友人からも「すごいね」と称賛された。現在は音楽祭の企画・運営に携わっており、充実感に満ちている。

■やっぱり仙台

 その一方で「便利さや街の魅力という点では、やっぱり仙台」と話す。商業ビルの開発が進むJR仙台駅前は店舗群が集積。それに加えて鉄道、バスなどの公共交通網も充実している。自家用車の必要性は感じない。山形県にも食や自然を通じて魅力を感じる場所は多いが、「車がないので、なかなか足を運ぶことはできない。もっと交通の手段があれば助かる」。スクールバスがあるため通学には困らないが、それ以上に行動範囲を広げるのは容易ではないのが現状だ。

 最近、山形市中心部のドーナツ店が閉店したことを知った。「店が無くなっていくと、集まる人もどんどん少なくなってしまうようなイメージがある。何かもったいない」。趣のある文翔館をはじめ、歴史などを背景とした資源はあると思うからこそ、それを十分に生かし切れていないと感じてしまう。

■バイトがない

 「山形が不満ってわけではないけど…」。県立米沢栄養大3年保坂寿奈さん(20)=山梨県韮崎市出身=は「休日に遊ぼうにも行き先は大体県外。思い描いていた大学生活とちょっと違う」と表情を曇らせる。

 米沢市街地から南東に約3キロの大学近くで1人暮らし。日用品がそろうスーパーは近くにあるものの、市街地にある雑貨店やカフェ巡りをしようとすると、バスの便が悪いため、主な交通手段は自転車。「重い腰を上げざるを得ない」。冬場の行動範囲は徒歩圏内に限られてしまう。

 さらに、店舗の営業時間の短さや数が少ないことも足かせとなる。「一日満喫するなら、友人たちとレンタカーを借りて仙台や福島に行くことが多い」

 将来は管理栄養士を目指している保坂さん。大学進学後は飲食店でバイトするのが夢だった。しかし、「大学や自宅周辺で求人を探してもなかなか見つからなかった」。就職活動も同様。県内より地元の関東方面や大都市圏の方が選考試験やセミナーが開かれるなど有利な点が多いという。

■受験機会もっと

 山形大農学部4年の春田魁登さん(21)は鹿児島県薩摩川内市の出身。2013年に入学し、山形市内で大学生活をスタート。14年から鶴岡キャンパスに通う。

 「山に囲まれた風景が実家に似ている」と話す。全国的に減少傾向にあるタニシについて研究する春田さんは「地方でしかできない研究がある」と強調。充実したキャンパスライフを続けるため大学院への進学を希望している。

 地方で学ぶことに不便さを覚えることはないだろうか。英語が堪能な留学生の存在が刺激になっていると明かす春田さんは「英語能力試験を受けたいが、地方での受験機会は少ない。もう少し開催数が増えればいいんだけど…」。

(「挑む 山形創生」取材班)

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