―大江町柳川に移住して1年。都会の生活との違いに驚くことが多かったのでは。
「方言や、隣組がある地域社会など、違うことばかりですからね。大変だったのは雪。汗だくになって除雪し、通り道ができたと思うと屋根から雪が落ちてきて…。1カ月で5キロ痩せました」
―住まいは築100年以上の古民家だとか。
「町にいくつか物件を紹介してもらい、せっかくならと選びました。でも、これがまた大変で。天井が高いのでストーブで部屋が暖まらない。コップの水が凍るほどです。天井の下に農業用のマルチシートを張るなどして、なんとか室温を保っています」
■夢をかなえる
―都会が恋しくなりませんでした?
「雪だけでなく、交通や買い物の不便さも、暮らしていくうちに慣れるものだと思います。それに、自分の夢をかなえるために来ていますから」
―どんな夢ですか。
「エコツーリズムの確立です。環境保全を経済的な利益につなげたい。自然観察でお金を稼いではいけないという風潮がありませんか? それではいつまでたっても、自然は経済的に無価値なまま。壊され、失われる。そこで観光の視点です」
「例えばここではクマタカを見ることができる。フクジュソウが咲き、アカハライモリと出会える。都会で見ることができなくなった動植物は魅力的な観光資源です。地元にとって当たり前にあるものでも、貴重な財産。生かさない手はない」
―展望は。
「自然とはいえ、商品のブラッシュアップが必要です。一つの方法が『再生』。休耕田を耕し、ホタルが飛ぶ水路を復活させる。その取り組みを体験型の観光として提案する。その結果、UターンやIターンが増え、別の事業や活動が始まり、さらに人が訪れる。そうなったら素晴らしいですね」
―自然が育んだ食文化もある。
「そう、山菜です。これだけの種類を食べるのは山形特有の文化だと思います。山菜は(裸地化した場所で最初に育つ)パイオニア植物と呼ばれます。大雪で毎年地面がリセットされるから、山形は山菜が豊富なのかもしれませんね」
■全世界にPR
―それでも本県の観光は後れを取っています。
「私自身は前職の先輩から山形の自然について聞いていましたが、メディアを通じて知っていたのは蔵王とサクランボ、米沢牛ぐらい。月山・朝日連峰、ブナ林面積日本一など誇れる自然があるのに全国に届いていない。知床や屋久島、小笠原、沖縄などのように、山形も自然観察やトレッキングで誘客できると思います」
―山形をPRするために必要なことは。
「何かイベントがあっても、県内、市町村内、市町村内の各地域といった手近な場所だけで完結していませんか? 小さくまとまっていて、広がりに欠けていると思う。もっと他の県や市町村、地域間の協働があっていい。視野が広がれば、地域の魅力を掘り起こしたり、新たな観光資源を生み出したりできるはず。全国、全世界に向けて山形をPRする方法を考えていきたいです」
―立ち上げから携わってきた「やまさぁーべ」。4月末で開館1周年です。
「1月末までの集計で宿泊客は567人、体験プログラムの参加者は309人。多くの方々に利用いただき、予想を上回る人数になりました。2015年度はスタートの年ですから、物珍しさもあったことでしょう。リピーターをいかに獲得できるかが大事。2年目は挑戦の年です」
(「挑む 山形創生」取材班)
【共通質問】山形ってどんな感じ?
(1)山形のどこを全国にPRしたらいい?
▽日本一の面積を誇るブナ林や月山・朝日連峰など、豊富な自然資源。知床や屋久島などのように山形も自然観察やトレッキングで観光客を誘致できるはず。
(2)山形の悪いところ、改善した方がいいところは?
▽県内だけ、地域内だけで完結し、広がりに欠ける印象。外部の意見、方法を参考にしたり、協働したりすることがあっていい。
(3)山形らしさを一言で
▽魅力いっぱいの土地。でも恥ずかしがり屋。
ささき・りゅうま 1978年4月生まれ、37歳。横浜市出身。帝京科学大、大学院で両生類の生態などを研究し、埼玉県内の自然保護団体で環境教育に携わった。新規就農イベントで大江町の団体と知り合い、2015年1月に移住。町山里交流館やまさぁーべの館長を務め、動植物の観察や農林業体験などのプログラムを利用者に提供している。町内の古民家で妻晶子さん(35)、長男桜介君(2)と3人暮らし。
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