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挑む、山形創生

第2部「雪」 (9) 雪を生かした観光(下)

2016/2/25 11:11
夜の樹氷に大興奮のタイの旅行会社関係者。雪の珍しい国の人たちにとって、冬の風景は魅力だ=1月28日、山形市・蔵王温泉スキー場

 本県が全国、世界に誇る冬の観光資源といえば「樹氷」が挙げられる。宮城県蔵王町、青森県の八甲田山などでも観賞は可能だが、山形蔵王の「スノーモンスター」はスケールの壮大さ、形状の美しさから、「日本一」との声も聞かれる。近年、樹氷観賞者数を押し上げているのが、台湾を中心とする外国人観光客たちだ。

■団体客大幅増

 樹氷ライトアップなどを実施している蔵王ロープウェイ(山形市)によると、昨年11月~今年1月にロープウエーを利用した外国人団体客は約1700人。1月だけを見ても、昨年同期比3割増と大幅に伸びている。雪が珍しい国の観光客にとって、蔵王の冬の風景が大きな魅力となっているのは間違いない。

 先月28日、県内空港の利用拡大促進の一環でタイの旅行関係者9人が蔵王を訪れた。雪上車に乗り込んで夜の樹氷を観賞。寒さを忘れたかのように雪上に寝転んだり、写真撮影したりするなど、夢中ではしゃぐ姿が見られた。参加者の一人は「タイの人は雪が好きなので、樹氷はきっと人気が出ると思う」と話した。

 県も外国人の誘客に積極的な姿勢を見せている。昨年11月、吉村美栄子知事が台湾を対象とするトップセールスを行い、1月17日~2月18日にチャーター便の運航が実現した。山形空港の発着は18便。県観光交流課によると、千人を超える利用があり、その3分の2は蔵王での樹氷観賞、スキーを楽しみにした来訪だったという。

 冬の観光客数が落ち込む本県だが、外国人宿泊者数(2014年3月~15年2月)を見ると、春夏秋の構成比がそれぞれ約18~20%なのに対し、冬は40%余りに達した。

 蔵王は本県の「冬の観光」のエース格。県内の他観光地にも影響を及ぼす。銀山温泉(尾花沢市)の旅館「銀山荘」専務の小関健太郎さん(32)は「樹氷を絡める宿泊者の方は多い。山形、日本を代表するレジャースポットなのだと思う」と、その存在感の大きさを認める。

 地元の蔵王温泉観光協会青年部は今冬、ファミリー層の誘客を図る新たな取り組みに打って出た。山形、上山両市にまたがる蔵王温泉スキー場の大森ゲレンデに家族でそり遊びを楽しめる「じゅっきースノーパーク」を初めて開設した。柵で囲ったことで安全性が高く、ゲレンデ内の「託児所」としての一面が人気の要因となっている。

■気軽に雪遊び

 仕掛け人の一人で、同温泉のマスコットキャラクター・じゅっきーくんのプロデューサーでもある斎藤龍太さん(40)は家族連れに加え、増え続ける外国人観光客をより満足させる方策として「スキーではハードルが高い人もいる。樹氷を観賞した人たちが雪遊びを気軽に楽しめるような『大人のスノーパーク』があってもいい。より滞在時間が長くなることにもつながる」と提案する。

 人口減少で国内需要が頭打ちとなる中、交流人口の拡大に期待されるのが、海外からの旅行(インバウンド)だ。しかし、観光庁の宿泊旅行統計調査によると、14年の全国の外国人延べ宿泊者数が4482万人だったのに対し、本県は延べ4万8千人。全国の0.1%にすぎない。47都道府県の41位と低迷している。

 同じようにスキー場を持つ新潟県や長野県と比べてもまだまだ「冬の観光」の国際的な知名度は低いといわざるを得ない。樹氷、温泉、広大なスキー場と、冬に限っても観光客を引き付ける魅力を多く抱え、世界に冠たる蔵王。潜在力の発揮が今こそ求められる。

(「挑む 山形創生」取材班)

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