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[36]配水池清掃ロボ改良 吉田製作所(長井)

2015/10/25 11:48
走行用ベルトで進む配水池清掃用の自走式ロボット。高精度カメラを搭載し、配水地内部を調べることもできる。奥は吉田重成社長=長井市・吉田製作所

 底にたまった沈殿物を水中に浮き上がらせないよう、ゆっくりと静かに進んでいく。その動きになぞらえ「ザリガニ君」と命名された自走式ロボットに与えられた任務は、生活用水を各家庭に供給する配水池内部の清掃。一般的にはなじみのないロボットだが、生活に直結する水の安全、衛生を保つために威力を発揮している。

■操作性向上

 省力機械の製造メーカー、長井市の吉田製作所=吉田重成社長(41)=が製作に着手したのは2011年3月。それまで製造してきた神戸市の業者が倒産したことから、日本水中ロボット調査清掃協会(本部・東京都中央区)から「西置賜地域の製造業の技術力を生かして作れないか」と依頼されたことがきっかけだった。

 仕組みは家庭用掃除機とよく似ている。配水池に沈め走行用ベルトで移動し底の沈殿物を吸引。車体から伸ばしたホースを通じて外部に排出する。二つのライトとカメラが搭載され、モニターを見ながら有線のリモコンで遠隔操作する。

 自動車製造関連会社向けの装置がメーンでロボット製作の経験はなく、「ゼロからのスタート」(吉田社長)で試行錯誤の連続だった。水深が10メートル以上になることもあり、本体内部に水がにじんだり、水中で走行できなくなったり。パッキンで入念に防水加工を施し防水性を強化した。

 配水池は高さ10メートル以上のタンク型もあり、運搬の労力を減らすため軽量化も求められた。試作機では約15キロだったが、薄くても耐久性が高いステンレスの割合を増やすなどして約8キロまで減量。さらに従来品では上下にしか動かせなかったカメラを左右計約240度可動できるよう設計した。カメラだけを動かして状況を確認できるようになり操作性が格段に上がった。高精度カメラを搭載したことで、内部の防水塗装の剥がれや亀裂などを調べることもできるようになった。

■応用に期待

 配水池の清掃は水道法で厳格に定められた水質基準をクリアするため、3~5年に1回実施することが望ましいとされている。西日本を中心に行われているダイバー潜水は確実に目視点検できる半面、作業中の死亡例もあり危険性が指摘されている。水を抜いて清掃する手法は膨大な水を一度捨てなければならないことがネックだ。ロボットによる清掃は水を抜く必要がなく安全で衛生面でのメリットもある。採用する自治体は県内でも増えており、今後さらにロボットの需要は高まりそうだ。

 吉田功会長(74)は「ロボット製作は初めて取り組んだ分野だが、部品作りから設計、組み立て、制御、据え付けまで一貫してこなせる社の強み、技術力を生かせた。可能性が広がった」と胸を張る。今後、配管内部の点検などさまざまな分野への応用も期待される。吉田社長は「蓄積したノウハウを生かすべく特殊な用途があれば挑戦していきたい」と新たな領域の開拓に意欲をのぞかせた。

(ものづくり取材班)

吉田製作所 1973(昭和48)年、長井市寺泉に創業。社員数24人。自動車製造関連会社向けの省力機械、装置を中心に手掛ける。

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