東日本大震災

震災9年、それぞれの再出発[2] 奮闘刻んだ「奇跡の船」

2020年03月11日
気仙沼港の火災で黒く焦げた第85若潮丸の船体。修理の末、奇跡の復活を果たした=2011年4月
気仙沼港の火災で黒く焦げた第85若潮丸の船体。修理の末、奇跡の復活を果たした=2011年4月
 漁師にとって、船は家族のような存在だ。あの日、酒田市の本間健さん(63)が船長を務める中型イカ釣り船「第85若潮丸」は宮城・気仙沼湾の港に停泊中、津波後の火災で炎に包まれた。修理を経て約半年で漁に復活。「奇跡の船」で日本一の水揚げを誇ってきた。あれから9年。苦難を共に乗り越えた船は後輩に託す。新造船に乗る本間さんは再び大漁を目指し、新たな船出を迎えようとしている。

 東日本大震災直後、気仙沼市内では大規模な火災が発生。港にあった船の燃料タンクが津波で破壊され、漏れた大量の重油に燃え移り、港湾部も火の海となった。本間さんが自宅のテレビでその様子を見ていた時だった。一瞬、若潮丸が画面に映った。整備のため、気仙沼に停泊させていたのだ。船の“安否”を確認しようにも、電話は通じない。「もう諦めるしかない」。娘のように大切にしていた若潮丸を失ったと思い、数日間、ふさぎ込んだ。

■驚きの大漁
 「気仙沼湾の真ん中に一隻だけ残っていた。若潮丸だ」。1週間ほどたったころ、漁師仲間から朗報がもたらされた。すぐに気仙沼に駆け付け、船体が黒焦げになった若潮丸と再会した。係留していた港から流されたという。炎に包まれ、作業室などは焼けた。しかし、エンジンや操舵(そうだ)室、冷凍室はすす一つ付いていなかった。「奇跡だ」。見つかっても、廃船にせざるを得ない漁船が多かった中、若潮丸の再生は、本間さんだけでなく、漁師たちの希望となった。

 修理のため若潮丸は函館へ。関係者が総力を挙げ、作業に当たった。新たな船体に生き残ったエンジンなどを載せ、驚異的なスピードで半年もかからずに復活。イカの漁期は例年6月~翌2月だが、本間さんは、2カ月遅れだったものの8月には出漁できた。この年は不思議なくらい大漁だった。8~12月で、全国約70隻の中型船の水揚げ高で最多を記録した。

被災から復活した奇跡の船・若潮丸への思いを語る本間健さん=酒田市
被災から復活した奇跡の船・若潮丸への思いを語る本間健さん=酒田市
■希望を胸に
 本県水産業の主力の一つ、イカ釣り漁を取り巻く環境は厳しい。主要な漁場となる日本海の「大和堆(やまとたい)」では北朝鮮によるミサイル発射や、違法操業に悩まされている。資源の枯渇という懸念材料もある。被災から復活後、こうした多くの困難に若潮丸とともに立ち向かってきた。離れがたい船ではあるが、さらなる大漁を目指し、より大きな船に乗り換える。

 まだまだ働くことができる若潮丸を欲しいという人はいたが、託す相手は後輩漁師と決めた。「嫁に出すようなもの。信頼できる相手にお願いしたかった」。新たな船の進水式は間もなく、被災した気仙沼で行われる。「もう一度、大漁を…」。本間さんは「奇跡の船」を送り出し、希望を胸に新たな“家族”と再び海に出る。
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