東日本大震災

震災9年、それぞれの再出発[1] 福島から避難の母子

2020年03月10日
娘と歩く藤田亜希子さん(中央)。福島市から避難し、長女と次女は今春、県内の中学、高校に進学する
娘と歩く藤田亜希子さん(中央)。福島市から避難し、長女と次女は今春、県内の中学、高校に進学する
 東日本大震災の発生から11日で9年となる。被災地は大きな揺れと未曽有の津波に襲われ、原発事故という経験したことのない恐怖にさらされた。多くの人が、あの日を境に人生が変わり、大切なものを失った。それでも山形の地で前を向いて生きている人たちがいる。来年に迎える10年の大きな節目を前に、新たな旅立ちをし、再出発を切る被災者、避難者の思いを紡ぐ。

 福島市出身の薬剤師藤田亜希子さん(47)は、放射能という見えない脅威からわが子を守ろうと山形市に移り住んだ。長女は中学3年生、次女は小学6年生になり、それぞれ今春に県内での進学を控える。「第二の古里」となった山形で娘たちの成長を日々感じながら、母子3人、ここで支え合い、生きていこうと決意を新たにしている。

二重生活と離婚
 福島市では新築のマイホームで夫と4人、穏やかに暮らしていた。2011年3月11日は、長女の卒園式に着る服をデパートに取りに行く予定だった。大きな揺れに襲われ、翌日に原発事故が起きた。福島県内では、どこにいても放射能への恐怖は日に日に高まっていた。「幼い娘たちを守らなければいけない」と、6月、2人を連れて山形市へ。夫が残る福島市内の職場に通い、慣れない土地に住む二重生活を始めた。

 次女は震災の記憶がほとんどなく、すんなりと「山形っ子」になった。一方で、長女は将来の夢や願い事に「福島に帰る」と書き続けた。父親を置いてきてしまったという思いがあったのかもしれない。小さな胸を痛める娘に藤田さんは何度も泣いた。夫は避難に反対していた。意見の相違は埋め切れず、3年ほど前に離婚した。

「お疲れさま」
 母子3人の家族になると、娘たちに変化が見え始めた。福島に通う生活は続けた。「お疲れさま。シングルマザーって大変だね」。夜遅くに帰宅すると、長女はそんな言葉でねぎらってくれた。クリスマスには料理好きの次女と一緒に手作りのケーキで迎えてくれた。娘たちが支えだった。山形で暮らし始めてから、多くの人の支えなしでは生きていけないということを感じるようになった。

 「震災で価値観が180度変わった」と藤田さんは言う。いい学校に入り、高い給料をもらう仕事に就いて、自分の力で生きていく―。震災前は、そうするべきで、それが幸せだと信じていた。だが、原発事故という脅威の前で、人間はあまりにも無力だと感じた。いろいろな価値観があり、どんなことがあっても生きていける力が大切だと思うようになった。だからこそ、娘たちには視野を広くし、自分の可能性を信じて強くなってほしいと願う。「これまでの経験は決して無駄ではない」。そう伝えている。

 次女は将来、母と同じ薬剤師になりたいと語る。長女は絵が得意で、全国コンクールで入選。米国で3週間のホームステイも経験し、「デザイン系の仕事をしたい。都会で暮らしてみたい」と話す。福島に帰りたいとは言わなくなった。間もなく新たな学校生活を始める子どもたち、それを支え、支えられながら山形で生きていくと決めた母。3人の暮らしは今、「あの日」の前と同じように穏やかだ。
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