異変-生態系クライシス

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第3部・外来生物(8) 「食べる」

2023/6/3 16:36

 天敵が少ない自然環境で旺盛な繁殖力を発揮し、在来種を駆逐する外来生物は、果たして「悪」なのだろうか? 人の手で国内に持ち込まれた生き物にしてみれば、移り住んだ先で自然の摂理に従い、純粋に命を燃やしているに過ぎない。ただ、野放図に広がれば、在来種は危機に立たされる。駆除された外来生物を「食べる」ことで、その命に報いようという動きが県内で出ている。

 外来生物法は特定外来生物の飼育や栽培、保管、運搬などを禁じている。動物や魚であれば生きたまま、植物であれば繁殖能力を残したままの移動は原則、できない。このため、駆除された個体は焼却処分や堆肥化されるケースが多いが、近年注目されるのが食材として有効活用する試みだ。

 庄内自然博物園構想推進協議会と鶴岡市自然学習交流館ほとりあは2014年度から、同市大山地区の都沢湿地で駆除したウシガエル、アメリカザリガニを食材として地元飲食店に提供するプロジェクトに取り組む。関係者は「外来生物問題を知ってもらう契機にもなる」と語る。

外来生物を使った限定メニューを提供する「ビストロ・デ・ポン」の佐藤啓志さん=三川町

 三川町のフランス料理店「ビストロ・デ・ポン」は、鶴岡市大山地区の都沢湿地で駆除したウシガエルとアメリカザリガニを使ったメニュー「ほとりあ湿地保全ランチ」(1100円)を期間限定で提供している。ウシガエルの脚のソテーにアメリカザリガニのスープなどが付き、代金の一部は駆除を担う同市自然学習交流館ほとりあに寄付される。

 カエルとザリガニを「食べる」ことに抵抗感を持つ人もいるだろう。ただ、どちらもフランスでは高級食材として扱われる。同店シェフの佐藤啓志さん(59)は「養殖された輸入品と違い、無農薬の環境で自然の餌を食べている。食材としては最高」と“都沢産”の品質に太鼓判を押す。

 佐藤さんは25歳で単身渡仏し、4年間修業した経験がある。1997年に現店舗を構え、輸入したカエルやザリガニを提供したこともあったが、仕入れ価格の高さがネックだった。そんな折、ほとりあで駆除した個体を譲り受けることができた。

 養殖物と違って大きさがそろわず、調理法を試行錯誤した。小さなザリガニは野菜と一緒に炒め、香味野菜と魚のだし汁で煮込み、裏ごししてスープに仕立てた。手間はかかるが、本場仕込みの味は顧客に受け入れられた。「大人よりも子どもの方が興味を持って食べているのが面白い」

 食材は、ほとりあで一定の捕獲数に達した段階でまとめて届けられる。今季の限定ランチの提供は7月ごろに始められる見通しだという。佐藤さんは「外来生物に罪はなく、ただ駆除されて捨てられるのでは悲しい。おいしく食べて成仏してもらうことが、自分にできる駆除のお手伝いだと思っている」と語る。

 駆除されたカエル、ザリガニはこのほか、鶴岡市の「ラーメンダイニング 晴天の風」でも扱われ、ラーメンを期間限定で販売している。

 ほとりあの学芸員・上山剛司さん(41)は、「自分ごと」として考え、持続的な環境保全につなげる手法の一つが、食材としての活用だとする。「保全活動は『守る』だけの動きでは広がらないという実感がある。『学ぶ』や『食べる』は、人が保全に興味を持つ大きな入り口になる」と提言する。

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