異変-生態系クライシス

>>山形新聞トップ >>異変-生態系クライシス >>第2部・森と林(5) 変わるブナ林

第2部・森と林(5) 変わるブナ林

2023/3/29 09:37
豊かな森を象徴する朝日連峰のブナの巨木。温暖化で分布域の縮小が予測される=2022年9月

 本県の森林面積の22%を占め、高い環境保全機能を備えるブナ林は豊かな自然を象徴する存在である。高い保水力で森の水源となり、生息する野生動植物の命をつなぐ役割を果たすが、地球温暖化によってその姿は今後変わることが予測される。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は20日に公表した統合報告書で、世界の気温が産業革命前から1.1度上昇しており「対策を強化しなければ今世紀末に最大3.4度の上昇になる」と警告した。とりわけ冷涼な気候を好むブナ林はどうなるのか。かねてブナの分布に適した地域を予測する数々の研究がなされてきた。

 森林総合研究所(茨城県つくば市)のある報告は、分布に適した地域は温暖化により、今世紀中に九州や四国、本州の太平洋側でほとんど消滅し、本県を含む東北でもその面積が大きく減少すると予測する。ブナを含めた森の生態系への影響が懸念される。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による温暖化予測などを受け、森林総合研究所(茨城県つくば市)は気候変動が植物分布に与える影響についての研究を続けている。そのモデルケースとなっているのが日本全国に分布する天然林の一つであるブナ林だ。

 同研究所は温度と降水量などの情報から、ブナ林の生育に適した地域を予測する統計モデルを開発した。日本全土をメッシュ(1キロ)で区切り、将来的に予測される気温上昇を示す「気候変化シナリオ」の数値を、このモデルに導入することでブナの分布域を割り出す。

 その結果、今世紀末には本県を含めてブナの適域は大きく縮小し、北海道南西部にある北限はより北東に移動すると予測された。同研究所北海道支所の研究リポートは、温暖化により森林の構成種に消失・移動・加入といった変化が起こると指摘している。「変化をそのまま受け入れるのか、適応策により現存する種を保全するのかについて判断が求められる」とし、地域の実情に合わせた保全管理計画の必要性を訴える。

 同研究所の担当者は、気温上昇で一気にブナが消滅するわけではないとも説明する。「ブナの寿命は一般的に200年前後で、300年以上の木も存在する。いったん高木に成長したブナは、多少の気温上昇ではすぐに枯れることはないと考える」。むしろ懸念されるのは親木の次の世代だといい「ブナの実生(みしょう)や稚樹の成長が、ブナより高温環境に強いクリやコナラなどとの競争に負けてしまう恐れがある」と推測する。

 百年単位の時間をかけて姿を変えつつある豊かな森を次世代にどう守り残していくかは、われわれに課された宿題である。

[PR]
異変-生態系クライシス
[PR]