異変-生態系クライシス

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第1部・気候変動(5・完) 海水温の上昇

2023/1/8 20:00

 プラス1.8度―。本県沿岸「日本海中部」の1900年から2021年までの海面水温の上昇率だ。気象庁のデータでは、日本の全海域平均のプラス1.19度よりも高い。世界全体の平均は長期的に上昇しているという。近年の漁獲量減少や、回遊ルートの変化の要因の一つに、海水温の上昇があるとされている。

 固体に比べ、液体は温まりにくく、冷めにくい。海も同じで、陸地に比べて温度変化は本来小さいという。一方で、熱をため込む熱容量(貯熱量)は大気に比べて大きく、気象庁のデータでは海洋貯熱量は年々増えている。上昇している海水温を元に戻すのは容易なことではない。

 「明らかに捕れなくなってきている。海と魚の様子が変わってきた」。漁業者の一人は海を眺めながらつぶやいた。漁に出ると、大海原で確実に起きている変化を感じるという。近年の不漁傾向に関し、温暖化などの海洋環境変化との因果関係や、原因を特定するのは簡単ではないが、海に関わる多くの人たちは危機感を高めている。

 吹雪の中、雷鳴が響くと庄内浜にハタハタの群れがやってくる。藻場で産卵するためだ。ただ、ここ数年は大群での接岸が確認されていない。「資源量が減っている可能性がある」と県水産研究所の高沢俊秀副所長は指摘する。海の環境変化や海水温上昇は、資源減少の一因になっているだけでなく、海水の蒸発量増加が集中豪雨や豪雪の頻発、気候変動の要因にもなっているという。

漁獲量が減っているハタハタ。海水温の上昇など海洋環境の変化が影響している可能性がある=昨年12月、鶴岡市・由良漁港

 ハタハタの寿命は5年程度とされ、海底の砂に潜ってじっとしている2~3年魚が底引き網で漁獲される。今季、気になるのは漁獲量の少なさだけでなく、比較的サイズが大きいことだ。「生後4年くらいの魚が多く、2~3年魚が少なくなっている可能性がある」と同所の鈴木拓海研究員。海洋環境変化などで、稚魚が育たず、ハタハタ界でも「少子高齢化」が進んでいる可能性がある。増減はあるものの、本県漁業の主力魚種のスルメイカやサケも漁獲量は減少傾向で、ハタハタとサケの数量変化は同じように推移している。

 海では、冬に冷やされた表層の海水が沈み込み、深海の栄養豊富な水を押し上げる。この海水が表層で太陽光を浴び、植物プランクトンが増殖。それを食べる動物プランクトンも増え、小魚たちを育む―というサイクルがある。温暖化による海水温の上昇で、この対流が緩慢になり、魚介類に影響を及ぼしているとの見方がある。

 「海は広く、深い。定点観測も難しく、環境の変化や魚介類への影響の要因を特定するのは容易ではない」と高沢副所長。海の1度の温度変化は陸の数倍に相当するとの考え方もある。

 海水の蒸発量が多くなれば、大気に多量の水分を供給することになる。夏には線状降水帯などの積乱雲による集中豪雨が多発し、冬は記録的な降雪になるとされる。猛烈な嵐とドカ雪による寒く厳しい冬は、温暖化の裏返しの現象とされ、海水温の上昇が気象、気候の極端化を招いている可能性が指摘されている。=第1部おわり

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