第5部・教育・生活支援(4) コロナ禍の大学生~幸せの羅針盤|山形新聞

幸せの羅針盤

第5部・教育・生活支援(4) コロナ禍の大学生

2021/4/7 11:10

 大学に進み、自ら人生を切り開き始めようとする学生たちにとって、春は希望にあふれる季節のはずだ。ただ、昨春は違った。期待に胸を膨らませ、キャンパスライフを楽しもうとしていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大が学生たちを苦しめた。

 コロナ禍で県内の大学でも入学式は中止となり、講義がいつから始まるかも不透明な状況が続いた。経済にも大きな影を落とし、家計を圧迫。アルバイトを多く採用していた飲食店なども休業となり、親元を離れて暮らす学生にとっては、学費や生活費を支払えるのか、不安にさらされた。

 「アルバイト先はまだ営業しているけど、バイト代が減らされてしまった。どうしよう」。親からの仕送りも簡単には増やしてもらえない。途方に暮れ、食費に困窮する学生も出始めた。

 「若者たちの学ぶ機会と希望を失わせてはならない」。地域や大学関係者の支援の動きが加速し、広がり始めた。

アルバイト収入が減って食事に困っている山形大生は「とても助かる」と話し、缶詰や米などを受け取った=山形市・心縁寺

 「ままけは」。山形弁で「ご飯を食べて」という意味だ。コロナ禍による困窮で、食うに困る状態に学生を陥らせてはいけないと、県内の真宗大谷派の僧侶が「ままけはくらぶ」を組織し、供え物として檀家(だんか)などから差し出された食品を学生らに無償提供する取り組みを今年2月に始めた。「食べる」という生きる上での根幹を支えなくてはとの強い思いからだ。

 「カップラーメンしか食べられない日もあった」。岩手県出身で山形大に通う男子学生(20)は苦しい状況を明かした。親元を離れた1人暮らし。アルバイト先の飲食店が営業時間を短縮し、収入は半分ほどになった。父親はおらず、母に負担は掛けられない。食費を切り詰めるしかなかった。

■寺に集まる

 ままけはくらぶが支援するのはこうした学生たち。初回の受け渡し場所は山形大小白川キャンパス(山形市)の近くにある心縁寺で学生約40人がインスタント食品を詰めた紙袋や缶詰、コメ、リンゴなどを譲り受けた。鶴岡市出身の学生は「友人から聞いて来た。本当に助かる」と感謝した。

 同派山形教務所職員の曽場浩代さんは(37)は「未来をつくっていく若者が安心して知識を身に付けられる社会になるといい。私たちにできるのは地域で支えること。今できることに力を尽くしたい」と話した。

■学生同士も

Ligaによるフードパントリー。コロナ禍で困窮している学生に食品を提供した=昨年7月、酒田市・東北公益文科大

 学生同士の助け合いも始まっている。東北公益文科大(酒田市)の学生組織「Liga」の食品ロス削減チームだ。Love in good action(ラブイングッドアクション)から命名したサークルで、当初は難民支援などに取り組んできたが、同チームを結成し、学生にまだ食べられる食品を提供するフードパントリーを昨年7月に始めた。メンバーは地元庄内地域の企業を回り、食品の提供に協力を求めた。

 拠点となっている学内の一室には棚が設けられ、コメにパスタ、缶詰など、集まった食品が分類されている。提供を受けたい学生を募り、食物アレルギーも聞き取って、栄養価も考慮した1人ずつのセットを用意する。

 Ligaの取り組みは市民からも広く食品を募るようになり、学生だけでなく1人親世帯や外国人留学生、技能実習生など、同じように苦しんでいる人たちへの支援にも広がっている。チーム結成時の代表の同大4年鈴木梨加さん(21)は「私自身、アルバイトも減り大変だった。学生同士の人と人としてのつながり、触れ合いができたことも良かった」と話した。

 大学も支援策を講じている。山形大は基金を原資に無利子で10万円を貸与する新たな奨学金制度を創設、東北芸術工科大(山形市)は授業料の一部を返金した。東北文教大(山形市)は全学生に3万円を支給。東北公益文科大は一律5万円を支給し、リモートのみでの講義となった時期にはネットワーク環境を整える資金も給付した。

 今春も多くの若者が希望を胸に新たな学びやの門をくぐる。目にするのはコロナ前とは多くの点で異なる風景だろう。だが、大学関係者の一人は力を込めた。「将来を担う学生の学ぶ機会をコロナなんかに奪わせない」

[PR]
[PR]
[PR]