自動車は人生の買い物の中で大きな物の一つ。マイカーを持つと、思い入れは強くなる。「大切にされた車には1台1台、きっと心がある」。自動車のリサイクル事業を展開する永田プロダクツ(酒田市)の永田則男社長(59)はこう思っている。同社は中古車や使われなくなった車をリース車としてよみがえらせている。
この事業を始めたのは2009年。「リボーン・マジック・サーカス」という店名で地元・酒田や天童市、仙台市で直営店を構えている。車を再生させ、リース車として使う「リボーン・カーリース」の理念に賛同した同業者は多く、今では北は北海道、南は香川県までの12業者15店舗にネットワークが拡大。酒田発の自動車再生サービスとして、フランチャイズ展開をしている。
「ビジネスではあるが、もうかりそうだから始めるという業者は(ネットワークに)入れていない」と永田社長。重視しているのは、車を大切に扱い、可能な限り使いきる―という思いが経営者にあるかだ。
中古車を仕入れても、すぐに走れるものだけではない。ヘッドライトがなかったり、泥だらけだったり。酒田市の永田プロダクツが営む再生工場には、手入れを待つ車が並ぶ。
■数年の間だけ
同社はかつて自動車解体業が中心だった。「父親が始め、幼いころから車が解体されるのを見て育った」と永田則男社長(59)。25歳で家業に入り、まだ走れる車が処分されることに、もったいなさを感じた。本県は車社会。首都圏からの転勤者や学生らの中には、数年の間だけ生活の足として車を使いたいという需要があることが分かった。そこで2009年に始めたのが中古車を再生させ、リース車として提供する事業だ。利用者はメーカーディラーが手掛ける新車のリースよりも出費を抑えることができる。
同社が1カ月間に受け入れる解体車両は700台程度。このうち1割弱が再生可能な車だという。再生工場では解体した自動車から再利用できる部品を取り出し、消耗品は全て入れ替えて組み立てる。塗装もし直して外装を整え、消臭など室内の清掃も徹底。もちろんエンジン回りの整備も施す。再生までのチェック項目は83に上る。
工場にあった一見まだ新しいワンボックスカー。スライドドアを開けると、中は泥だらけだった。「昨年の豪雨被害で水没した車。これを今から再生させる」と永田社長。エンジンルームも水に漬かり、シートは交換が必要だが、手入れをすればまだ走らせることができるという。
■レンタカーも
「ビジネスだけで車を見てしまうと、この仕事はできない。車への愛情をもって整備するよう社員には言い聞かせている」。永田社長は工場の車を見つめてこう語り、続けた。「買って、売ってを繰り返すと、車の価値は下がっていく一方。だが、手を掛けて整備し、磨くことで再び息を吹き返し、人の役に立つ物に生まれ変わる」
同社では、リースだけでなく、より短期利用の需要に応えるため、レンタカー事業も始めた。こちらにも再生した車を導入する方針だ。リボーン・カーリースの利用者の中には、使い慣れた車に愛着が湧き、売ってほしいと願い出る人もいるという。「形には見えないものを大切にしていきたい。車にも、きっと心がある」。永田社長はそう繰り返した。
◇SDGs 「Sustainable Development Goals」(持続可能な開発目標)の略称で、2015年の国連サミットで採択された。17の目標を掲げ、30年までの達成を目指している。日本政府は推進本部を設置し、取り組みを加速させている。
|
|